脚光浴びる新調理システム「真空調理」(上)保存より素材の風味に主眼

1993.10.18 38号 11面

真空調理法(英語ではパウチクッキング、フランス語ではスーヴィット)は、ヨーロッパでは盛んに行われており、米国でも行われ始め、最近では、日本でも、新調理システム推進協会、服部栄養専門学校などが研究会、技術セミナーを盛んに行っており、真空調理法の普及が本格化しはじめている。

この調理法は食材を生のままで真空包装しスチームオーブンなどを用いて一〇〇度C以下で調理する手法で食材を真空パック→調理加熱→再加熱→プレートに盛り付け提供するという過程をとる。

ここでは21世紀の調理法といわれ最近一段と脚光を浴びてきた新調理システムをとりあげてみる。

◆真空調理

真空調理とは、食材を生のまま、場合によっては、調味料と一緒に真空包装し、湯煎やスチームオーブンを利用し、低温(五五~一〇〇度C)で一定時間加熱する調理法である。真空調理というと従来の真空パックと勘違いされる向きもあるが、真空パックは「包装内の空気を抜いて好気性細菌の増殖を抑える、いわば保存目的」であるのに対して、真空調理は「熱伝導を良くするために包装内を真空にして食材を袋ごと加熱する。つまり調理が目的」であり、保存はあくまで副次的な効果にすぎない。

レトルト食品との違いは、低温で加熱調理するため素材の風味や旨みがそのまま生かせ、ビタミンの破壊も少なく、味が格段に良いこと。その他素材の酸化や乾燥による目減りがなく、歩留まりが非常に良い。味が均一につく、調味料が少量ですむなど多くのメリットがある。この調理法は仕込みとレシピの作成を除けば、作業がデジタル化(数量化)が可能なため作業の多くの部分をマニュアル化でき、その部分を非熟練者にまかせることが容易にできる。

また、氷温(〇~三度C)の状態である程度(六日間)保存できるため、厨房内において作業のスケジュール化が可能で計画的生産(調理)ができ、時短の実現や人手不足の解消につながる。しかし、加熱温度が低いためボツリヌス菌など嫌気性細菌が増殖する可能性もあるため、厳密な衛生管理と正しい調理理論の理解および技術が必要とされる。

◆新調理システム

新調理システム(トータル・グルメ・オペレーションシステム)とは、真空調理やクックチルなどの新しい調理法、最新鋭の調理機器、高品質な調理済食品を活用し、効率よく「安全かつ美味しい“食”」を作り出せる生産(調理)から提供までのトータルな調理システム。

◆真空調理と衛生管理

真空調理を行う上で、最も気をつけなければならないのは衛生管理である。真空調理を安易に取り入れることは、衛生上極めて危険を伴うため、通常の調理に伴う一般的な衛生および食品取扱い上の基準より厳しいものが要求される。

食品には、あらゆる条件下で繁殖するさまざまな細菌が存在するが、真空調理の食品を真空包装し低温で加熱するため、レトルト食品のように完全に滅菌は行われない。特に問題になる細菌に、耐熱性が強く酸素のない状態で増殖し、芽胞を形成する偏性嫌気性細菌(ボツリヌス菌、ウェルシュ菌など)があり、細菌に関する正しい知識と理解が必要である。

◆基本調理プロセス

生の食材→袋入れ→真空パック→調理加熱→急速冷却・保存→再加熱→盛り付け→提供

▼生の食材▲食材は、鮮度がよく質の良いものを選び、こまめに冷蔵保存する。また、必要に応じて下処理をする。下処理はカッティングだけでなく、クセのある野菜は湯通ししたり食材の表面にコゲ目を付けたりすることなどもある。

▼袋入れ▲真空調理専用の特殊フィルムに、生または下処理した食材を入れる、この時、直接食材に手を触れないように手袋を使用する。また、塩・コショウ等の調味料は、この時に一緒に入れる。味が均一に付くというメリットがある。

▼真空パック▲食材の入った特殊フィルムを真空包装機に入れ、食材の周囲を脱気して袋を熱シールする。

▼調理加熱▲袋のまま湯煎またはスチームオーブンで低温で一定時間加熱する。この時、材料の中心温度の管理が重要である。加熱終了後、袋から取り出してすぐ供するか、急速冷却する。

▼急速冷却・保存▲細菌の増殖を防ぐため、加熱後は専用の冷却機または氷水につけて食材の中心を九〇分以内に一〇度C以下まで下げる。急速冷却後、チルド保存庫(〇~三度C)で保存する(六日間以内に消費すること)。

▼再加熱▲食材の袋に入ったままで、湯煎またはスチームオーブンで再加熱する。この時、食材の中心温度は一時間以内に調理加熱と同様の温度帯に上げなければならないが、味の劣化を避けるため調理加熱の温度を極端に超さないように注意する。

▼提供▲袋から取り出しプレートに盛り付けて提供する。

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