食の視点 これでメニューは大丈夫(5) 試食してみた?
◎メニューを考える◎
今、飲食企業は、色々な機能を分割して専門の部門を設置することに力を入れている。曰く、メニュー開発室、教育訓練部、新規事業開発部門、マーチャンダイジング部等々。特に、メニュー開発の機能は大切に考えられ、消費者のニーズを探り、トレンドを追及し、世界中から食材を調達し、料理を研究している。
競争の激しくなった現在では、どこかで他企業と違うことを見せつけなければならない。そのためのメニュー研究と新商品の開発努力は欠かせない。他人より早くトレンドを捉らえ、消費者の好みを知り、顧客の気に入ってもらえる商品をどこよりも早くに発表したものが勝つ。
◎失敗は成功のもと◎
モスバーガーの一連のライス商品は最近のヒットの第一に挙げられるものだろう。他企業が何も気づいていない間に、モスは、ライスバーガーを発表した。ティラミスのブームの時も、ファーストフード店としては最初にその製作に取り組んだ。
すかいらーくの運営する和食ファミリーディナーレストランの先駆け、藍屋の“アジのタタキ定食”も同じだ。無理と言われていた生のアジのさばきを素人にやらせて、それで成功したチェーンである。
しかし、いつもこうなるとは限らない。成功はいくつもの失敗と、涙の先にあり、しかも確実にあるとは言えないものなのだ。
時代に先取りするにしても、早過ぎても遅過ぎてもいけない。また、確実なバックアップの体制がなくてもいけない。食材をどこから、いくらで、確実に安定して仕入れられるのか。簡単で効率的な調理法はあるのか。日本人の舌になじむ味なのか、どれくらいの売値ならば受け入れられるのか、といったマーケティング面での調査も必要だ。実にさまざまなことを検討し、調査し、考えて、新しいメニューはデビューへ向かう。
ところで、新しいメニューを実際に取り入れる前の段階で、試食は大切な過程だ。何回も試作し、試食し、作り直し、研究し、訂正し、修正してきたものをまた試食する。そこでオーケーが出たものだけが、店舗のメニューとして採用されるのだ。試食するのはグランドシェフ、会社幹部、メニュー開発担当者。時にはコンサルタントやコーディネーターなども参加する。
◎食べること◎
味にうるさい、味に厳しい、そして、企業の利益や商売の構造をよく知っている人ばかりだ。食材や調理法、食器や調味料、盛付けやカラーコーディネートなどの知識を豊富に持った人たちだ。
しかし、試食の際に一人の人が食べる量は、どれくらいなのだろう。一人前を作っても、その量や彩り、香り、舌触り、原材料、フードコスト、調理法等に気をとられて、実際口にするのは、一口か二口くらいなのではないか。あるいは、その日一日、試食で食べまくった後だったのではないか。
実際に顧客が食べるのは、全部。一口目から最後の一口まで全部食べ切る。よくあるのが、一口目はおいしかったけど、最後のほうになると味付けが濃くて飽きてしまって、食べ切れなかった。本当においしいかどうかは、一口目から最後までズッとおいしいと思って食べられるかどうか、あるいは、あと一口食べたいと思うかどうかだと言われる。
◎真剣勝負◎
もちろん、フードサービス企業のベテランの面々は真剣勝負で試食に臨む。作る側も真剣ならば、食べる側も真剣だ。そして、作る方も食べる方もプロ。ここに落とし穴があるような気がしてならない。お客は食べることに真剣ではあるが、楽しみたくてやって来てもいるのだ。あるいは、空腹を満たしたくてレストランに入るのだ。おいしいものを、おいしいと思いながら、満腹も楽しみたいのだ。このお客の事情を無視したメニュープランなどあり得ない。