中国料理3店舗の経営戦略 「南国酒家」 小卓コースも導入、鮮度重視の食材手当
昭和36年11月に渋谷・桜丘で創業して以来、現在までに原宿、赤坂、新宿、玉川高島屋、横浜高島屋、港南台高島屋、仙台店、名古屋店と計九店舗の直営店を出店するほか、フランチャイズ方式で福岡、盛岡、日立、町田、浜松、小倉など計六店舗をチェーン化している。
料理形態は広東料理が主体で、単品(定番)メニューで一二〇~一三〇品目をラインアップしているが、北京ダックやマーボ豆腐といった北京や四川、上海料理などもミックスしている。
また、定番メニューに加えてかくしメニューも多く用意してあり、グルメ志向の強い顧客にも、それなりの対応ができるクッキング体制にある。メニューにはもちろん、単品に加えて宴会メニューも揃えており、二~三人の小人数から一〇名規模からのグループ、宴会客まで多様な利用形態に対応することができている。
「中国料理は多人数で利用すれば、料金的にも安くなり、食べ残しもなくなるのですが、最近は少人数での利用傾向が強くなってきていますので、二~四人くらいの少人数で楽しめる『小卓コース料理』も導入しており、とくに若い人たちの会食、パーティーなどに利用が高まってきております」(南国酒家総務部部長館正明氏)。
小卓コースというのは、定番単品メニューのポーションを小さくして、品数を八品くらいにまとめたもので、料金的にも一人当たり三〇〇〇~五〇〇〇円台の範囲と安くしたものである。
たとえば、四五〇〇円コースは、前菜、かに肉入りふかのひれ、小えびのチリソース煮、中国野菜と牛肉の炒め、白身魚の辛子和え、玉子スープ、杏仁ゼリーなど計八品で、平均的な日本人の好むメニューをセットしている。
小ポーションといっても、日本人の胃袋には十分にボリューム感もあり、食べごたえもある。内容的には文字どおりに、少人数用の宴会、パーティーメニューというリッチな中味になっているのである。
①いい材料を使う②おいしく、安く提供する③ボリュームを落さない‐‐これは南国酒家の創業以来の中国料理に対する基本的な考え方だという。
この三つの考え方を徹底していけば、余計な宣伝PRをしなくても、顧客の信頼を勝とることができるのだと信じている(館部長)。
しかも、こういった考え方に加えて、時代を読み取る目、すなわち、独自のマーケティング力も持っている。市場、消費者ニーズの変化に対応し、古い殻を破り、新しいものを取り入れていく、多人数利用のメニュー対応から小人数向きのメニュー企画、また、店舗メニューの提供方法にしても、和食や洋食スタイルのいい面を取り入れる努力をしている。
歴史のある中国料理といっても、変化する消費者ニーズに対応できなくては、ビジネスとしては失敗することになる。消費者の要望、要求に対応していこうとなると、古い伝統も打ち破っていく勇気も必要になってくるのである。
そういう意味においては、南国酒家は創業以来一貫して日本市場にフィットした中国料理を追い求めてきている。
南国酒家は渋谷・桜丘での創業時は街角のラーメン店にしか過ぎない小さな規模のものであった。それが五〇余年後の現在では年間売上げ四〇億円と、中国料理では国内でも有数の外食企業に成長している。やはり、中国料理に対する取り組み方、事業意欲の勝利といえるのである。
南国酒家原宿店は、和洋宴会場と結婚式場(神前式)を有する大型店舗で、その知名度は広く浸透している。
原宿店は本館と迎賓館の二店舗に分かれていて、明治神宮よりの迎賓館には神前式の結婚式場があり、そのための和洋大中の宴会場を備えている。
もちろん、一般の宴会、パーティー会場としても利用できるわけであるが、施設の性格から主として祝宴の場としての使われ方が定着している。
宴会場は、大宴会場の「鳳凰の間」二五〇人収容、中宴会場「朱鷺の間」四〇~六〇人収容、和室宴会場四〇~八〇人収容という施設内容で、ゆったりと華やかな空間を展開している。
本館は一階がフロント・ロビー、地下一階四〇〇人収容の大ホール、二〇~七〇人収容の洋室(二部屋)から成っており、二人連れのカップルから四〇〇人の宴会客まで、多様な利用形態に対応できるような施設内容となっている。
これら施設での提供メニューは、主として宴会・コースメニューになるが、これは通常の場合は五〇〇〇円、七〇〇〇円、一万円、一万二〇〇〇円(各一人前)と、二〇〇〇から三〇〇〇円きざみで料金を設定し、予算に応じて料理を選択できるメニュー構成となっている。
参考までにコースメニューを紹介すると、五〇〇〇円コース(九品)であれば、什錦■盤(盛合せ前菜)、蟹黄魚翅(かにの玉子入りふかひれ)、■■蟹巻(かにの巻き揚げ)、炒肉鮮貝(肉と平貝の炒めもの)、■爆■仁(小えびのチリソース煮)、百花青菜(中国やさいのかに肉ソースかけ)、糖■魚條(白身魚の甘酢かけ)、八珍炒麺(五目やきそば)、杏仁豆腐(杏仁ゼリー)。
また、一万二〇〇〇円のコース(一〇品)であれば、鳳凰■盤(鳳凰式盛合せ前菜)、紅焼■翅(ふかひれの醤油姿煮)、宝彩炉鴨(北京ダック)、時菜鮮貝(平貝とやさいの炒めもの)、生猛龍■(伊勢海老のチリソース煮)、金銭中■(中国式ビーフステーキ)、清■鮮魚(白身魚のネギショウガむし)、清湯花■(椎茸のつぼむしスープ)、蟹肉炒飯(かに肉入りチャーハン)、■子珍林(タピオカミルク)といった内容となっており、いずれもボリュームとメニュー内容はリッチなものとなっている。
もちろん、前述したように単品のグランドメニューも豊富に揃えており、お気入りの料理を一品一品チョイスすることもできる。
自慢のメニューは、冷盤(前菜)の什錦■盤(盛り合せ前菜)二六〇〇円、雲白肉片(薄切り鶏肉のにんにくソース)、一五〇〇円、■金■魚(あわびの冷菜)三五〇〇円、魚翅(ふかのひれ)、蟹黄魚翅(かにの玉子入りふかのひれ)二七〇〇円、八珍魚翅(ふかのひれ五目入り)二六〇〇円、燕■(燕の巣)料理の清湯燕■(つばめの巣の吸物)、二五〇〇円、蟹肉燕■(かに肉入りのつばめの巣)二六〇〇円(各二~三人分の小盆料理)などで、一種でもメニューのバリエーションには拡がりがある。
これは材料の調理方法、あるいは組み合せで、複数メニューを作り出すことができる料理技術を有するからで、同社を取締役総司厨長の冨塚宏氏を頂点に多くのすぐれた料理スタッフを擁しており、それを可能にしている。
また、材料の手当ての面でも、魚介類、野菜など鮮度の要求されるものは各店単位での仕入れ、乾燥素材は自社の仕入れ部門から供給というように分業体制をとっており、この点も深味のあるおいしい料理を作り出すことの要素となっている。
「常に客に飽きられない工夫、マンネリ化しない工夫が大切です。その意味においては私どもは旬の材料を使ってのメニュー企画とか、また、そういった内容のご案内をお客様に対しDMなどでお知らせする努力を致しております」(原宿店総支配人辻真幸氏)。