’93業態別展望・不況打開策 フランス料理=法人から個人客に、メニューに工夫を

1993.01.04 19号 2面

フランス料理に客離れが起きている。帝国ホテルが開業二二年の「フォンテンブロー」を、1月15日を以ってクローズドし、鉄板焼の業態にリニューアルするという。一流ホテルの有名レストランが店を閉じる。実績が高く維持されていれば、店をスクラップするということはない。やはり、消費の冷え込みということもあって、値の張る業態、料理形態は敬遠されているということのようだ。

フランス料理はもちろん料理の内容にもよるが、一般的には値の張る料理、高いプライスゾーンにある。このため、仏料理店を利用する客層は、企業の接待としての利用もしくは生活にゆとりのある人たち、あるいはファッション志向が強い、たとえば若い女性などの見栄、気取りの顧客層ということになる。

「たしかに、仏料理というのは一般的にみれば、高価格メニューが多く、誰もが気軽に利用するという雰囲気にはないかも知れませんが、しかし、巷でいわれているように、もう仏料理はダメということはないわけです。マスコミが、ネガティブな視点で一元的に騒ぎ過ぎている面もあるのです。

これだけいろんな店が乱立して、なおいろんな業種から外食ビジネスへと新規参入してくる。当然のことながら需要が拡大していかない限りは、バランスの問題もあり、市場は厳しくなっていくわけです。仏料理に飽きてイヤになったのではなく、たいした料理の中味でもないのに高い料金を取っていたところ、企業相手のところが、不況で厳しくなってきたということで、決して仏料理がダメになったということではないわけです」と語るのは、渋谷の地下鉄ビル一階に出店する「ヴァンセーヌ」シェフの酒井一之氏。

ヴァンセーヌはパリで、修業を終えた酒井シェフが、一〇年前に出店したレストランであるが、味と値段にシビアなフランス人がやってくるというので、多くの文化、マコスミ人にも利用されている店で、この人の輪の拡がりで好みにウルサイ婦人層にも広く支持されている。

酒井シェフの目論は、レストランビジネスは超高級店から大衆レストランまで、ピラミッド型に多様性があっていいという。消費者は自己の状況、事情でこれを選択していく。企業や金持相手にしていた料理店は、いまは厳しいかも知れないが、またよくなるかも知れない。市場のニーズ、サイクルを捉えていけば、大きくハズレることはないのだという。

ヴァンセーヌのポリシーは三〇〇〇円でも、五〇〇〇円でも料理の質を落さないで、全体ボリュームのコントロールによって、客の要望に対応していく。それがプロの生き方だという。バブルがハジケたのなら料金やメニューの面で工夫するのは当然のこと。やはり、“値ごろ感”が大事なポイントだという。

「私の店の場合は五〇〇〇円でもそれなりのものが出せて、一万円もあればおつりがあって、ちゃんとしたディナー料理が食べれるという考え方です。決して、フランス料理がダメになったというのではなく、またこの分野の料理人はメニュー開発に大変熱心で、いろんな素材を取り入れて、新しいメニューを開発していくこともできるのです。要は意欲、工夫の問題です」(酒井一之シェフ)。

高額商品が売れないなど、バブルがハジケて消費が低迷しているのは事実であるが、食のニーズが多様化し、社会が成熟化している今日においては、仏料理も食の一形態に過ぎず、高い料金を払ってまで食するのは必然性がないとする消費者が増えてきたのもまた事実である。

つまり、一方においては、見栄を張ってまで高い料理を食する価値を感じない人種が増えてきているということである。オークラの「ラ・ベルエポック」は、開業二〇年の歴史を有するが、バブル時代はフルタイム同一メニューをラインアップしていたのを、九一年秋から特別にランチメニューを導入している。

これはディナーメニューから抜き出したものもあるが、基本的には日替りのもので、メニューは肉をメインディッシュしたものが八〇〇〇円、魚料理をメインにしたものが六〇〇〇円と二種類で、ランチ客にチョイスしやすいメニューとなっている。

「私どもの店のご利用客はたしかに企業の接待利用が多いのですが、しかし、これからの営業戦略としては、アッパー志向だけでなく、個人、ファミリー客のイベントや祝いごとの場として、メニューや価格の面でも利用しやすいように、いろいろと工夫していかなくてはと考えております」(ラ・ベルエポックマネージャー田中俊彦氏)。

フランス料理も多様化する外食ビジネスの中で、フレキシビリティを求めて、大きく転換期を迎えたということだろうか。

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