シェフと60分 ロシアレストラン ヴォルガ料理長・小関信孝氏
《日本人向けにアレンジ》 フランス・中国料理などの専門店は数多くあるが、本格的なロシア料理専門店となると、東京といえどもまだその数は少ないようだ。
こうしたなか、初代コック長・ロシア人のマリアの伝統を生かしたロシア料理レストランが東京・港区芝公園、東京タワーのすぐ近くに立地しているのが『ヴォルガ』
「ロシア料理は、じゃがいもを除いては、野菜を使ったメニューは少ない。このため全般にカロリーが高く、あわせてボリュームがあるのが大きな特徴。このため、当店ではボルシチ(牛肉入り野菜スープ)にしても、油分を控え目にするなど、日本人向けにアレンジして提供している。また、この地に誕生して約三〇年、それだけに古くからのお客さんも数多くいるため、味を変えないように気をつけています」と語るのは小関信孝料理長。
かつては、はとバスの観光コースにも入っていたというほどの名が知れた老舗のロシアレストランだが、今は従業員二〇名、シェフは小関さんを含めて四人、客席は個室など含めて約一二〇人収容という規模。
ロシア料理という珍しさも手伝って、一五年前にアルバイトとして入店、その後、料理人としての修業を重ねて昭和61年から料理長になったという小関さん、味を変えないようにと言ったが、これは反面「ロシア料理はそれだけ保守的であるということにも結びつくと思う。私共の店でも、コースメニューをつけただけで、単品メニューについては、ほとんど変わっていません」と続ける。
《人気のシーフドコースも》 ところで、このメニューだが、単品では中まで赤い赤カブの一種であるビーツを使い、これにポテト、グリーンピース、人参を材料に酸味のあるサワークリームを混ぜた「ロシアンサラダ」、またすべてのスープにサワークリームを使うのが、料理の特徴といったなかで「牛肉入野菜スープ」(ボルシチ)、「ロシア餃子スープ」(ペルメニュ)、羊肉を赤ワインに漬け込み(日本人向けにアレンジした)、肉金串焼(シャシリク)、保存食の一種で世界的にも有名なキャビア「黒キャビア」(チョルナヤイクラ)、さらに飲み物では冷凍庫で冷やしても凍らない「ロシアウオツカ」(モスコスカヤ‐ロシア製)。嗜好品では、砂糖の代わりにジャムを入れて飲む「ロシア紅茶」など、比較的日本人にも馴染みがあることもあって人気メニューとなっている。
また、フランス料理などの前菜は、ロシア料理がベースになっているといわれているなかで、コースメニューについては、A(八〇〇〇円)、B(一万円)、C(一万二〇〇〇円)のコースが用意されているが、魚を使った単品メニューの評判が良くなっていることから、新しくシーフードコース(前菜の盛合わせ、ボルシチ、鮭のクレープ包み揚げ、鮭の網焼き、鮭のクリーム煮・うち、いずれか一品、黒パン、ロシア風アイスクリーム、ロシア紅茶またはロシアンコーヒー)九〇〇〇円を設けている。
ところで飲食業界も減速景気を反映、フランス料理などに代表される高級レストランでは、このところ客数減になっているのは周知の通りだが、この面では『ヴォルガ』も影響を受けているという。それだけに「素材、味を落とさずにメニュー価格を引き下げることも一つの策」と小関さんも心配するのだが「ロシア人に直接家庭料理をお教えていただき、ロシア料理のその奥の深さを勉強したい」との姿勢がある限り、その味を求めて固定客は離れまい。
文 ・木村 繁男
写真・大塚 憲一
〈プロフィル〉昭和27年大分県日田市生まれ。高校卒業後、18歳で上京。サラリーマン生活などを経て、レストランで修業。25歳の時、ヴォルガに入店、35歳で料理長、現在に至る。