トップインタビュー:オージーエムコンサルティング・榊芳生社長

1997.09.01 134号 7面

――米国のチェーンストア理論や飲食トレンドを手本に、日本の外食産業は伸びてきました。が、それが今後は通用しないと。

榊 米国は狩猟民族で、日本は農耕民族。かたや契約社会、かたや情と義理の社会。発想がまるで違う。とりわけ食習慣については根本的に違うのです。

日本人が米国に憧れ、米国のような豊かな生活をしたいと思っているうちは、ハンバーガーもフライドチキンもご馳走だった。じゃあ豊かになった現在はどうか。ちょっと待てよ、もっとうまいものがあるのではないか、あったはずだ、と思いますよね。だから過渡期のいまは、米国から持ってきた効率優先のFFやFRが衰退し、とんかつ屋、焼き肉屋、居酒屋など“屋”のつく和系専門店が流行しているわけです。

昨年、われわれ(OGM)の会員企業のうち二二六社が新規出店しましたが、洋食系の店を開けたのは二〇%にも満たない。ほとんどが和食業態です。コンサルタント業を始めた一八年前は八〇%が洋食業態だったのに、いまや完全に逆転しているわけです。

しかもこれらの店の売上げは既存店ベースで伸びている。新規出店で全体の売上げを伸ばしている大手チェーンとは、まるで中身が異なるわけです。

経営者は、時流の流れとともに顧客ニーズが変化していることに気が付かなければなりません。そして経営者自身もそれに合わせて変わらなければならないのです。

――そこに中小企業、生業店の生きる道があるというわけですね。

榊 その通り。大手企業に対し、中小企業や生業店は小回りが効き、経営者の目もよく行き届く。効率論とかデータとかマニュアルとか格好いいことを並べ、売る側の勝手な論理で拡大してきた大手チェーンは、安売りこそ可能であれ、時流にのった顧客ニーズにタイトに応える順応力はない。だから、これからの飲食業界はシェアの八〇%強を占める中小飲食店の時代だ、と声を大にして主張するわけです。

――既存大手チェーンにとっては冬の時代を迎えているわけですね。

榊 大手チェーンは米国のノウハウに頼りすぎ。時流の変化を承知していながら、またしても米国のやり方で乗り切ろうとしている。だから繁盛店をつくれない。効率論ばかりで、安売りにしかセールスポイントを見いだせないでいるのです。

――安売りは一貫して否定しておられますね。

榊 安く売れば集客力は強まります。でもそんなもの飲食店経営の実態にまったく関係ありません。他店がやっても恐れるに足りぬですよ。安売りしたところで繁盛するのは昼間だけ。昼間のお客は安く腹を満たせればいいだけで、味やサービスに対する評価なんて皆無に等しいものです。当然、ランチタイムでは利益もあまり見込めません。夜の集客につながるかどうかも疑問ですね。

本当の繁盛店は、夜に行列をつくる店。並んででもそこで夜の団らんを過ごしたい、と思わせる店なのです。夜の団欒を低価格業態で過ごしたいという人はあまりいません。

最近のファミリー客は、安易に低価格に走ったロードサイド店に見切りをつけ、少量多頻度で手作り志向の居酒屋に流れています。安売りとマンネリ化が招いた象徴的な現象だといえますね。

われわれは低価格志向に断固反対するのも、そうした事例を多く見ているからです。お客は質の違いをシビアに見ています。“安売り”イコール“お値打ち”でないことをよく知っています。自分らが外食に求める品質、サービスの許容範囲、実勢価格も十分にわかっています。飲食店はそれ以上に応えることで、初めて繁盛店になれるのではないでしょうか。

――繁盛店づくりに必要なポイントは何ですか。

榊 人生観を基調とする人作りに尽きます。まず経営者自身が「幸せになりたい」という人生観を明確にし、従業員と腹を割ってお互いの人生観を語り合うこと。そして従業員とともに歩む以上は、それなりの見返りを相手にも与えること。理想の人生観に向かいながら、実績に見合う見返りがあれば、従業員は尊厳を持って充実した日々を送れる。従業員が自らのために働ける環境をつくることが大切なのです。

従業員を犠牲にするような大手チェーンの使い捨てはいけません。目標を与え、ゆとりを与え、儲かったら分け与える、そしてお客に誉められる仕事の仕方、一〇〇円でも二〇〇円でも多くもらえるような仕事の仕方を教えてあげる。仕方がわからなければお互い勉強する。規模が小さくとも一人ひとりが充実してればよいわけです。年間給与一〇〇〇万円以上の従業員をどれだけ育てられるかが、飲食店経営者の手腕を判断する一つの目安となるでしょう。

こうしたことの実践によって、ヒューマニズム色を濃くし、満足度の高いサービスが生まれるのです。マニュアル主体で、使うだけ使う(人手を)なんて飲食店経営は御法度。マニュアルやノウハウはあくまでも補完的な役割であって、人間が中心となって働くのが飲食店本来の筋なのです。

――従来の大手チェーンは、そのような人材育成をしてこなかったのですか。

榊 少なくとも、尊厳の持てる環境づくりや、儲かった分を分け与えたり、お客から誉められる仕事を教えるようなことは、してこなかったと思います。

儲かれば店舗を増やすことばかり、誉められ方を教えることができないからマニュアル一辺倒。従業員の感動を喚起することなんて、かけらも考えていない。

ローコスト経営なんてのも流行しましたが、そんなのは、お客に対しても従業員に対しても、馬鹿にしているの一語に尽きますよ。実際に行われたのは、プレハブなどの安っぽい店づくりや、従業員を減らした手抜きサービスばかり。それんでお客は喜びましたか。従業員のやる気を駆り立てましたか。

ある低価格FRの話ですが、その店ではお客は店の奧から座っていくそうです。普通なら窓側から座っていくのになぜかわかりますか。その店で食べているのを外から見られたら格好悪いからですよ。奧に座っていれば外から見えないというわけです。そんな店で従業員が張り切って働くわけないでしょう。

ある大手FFも同じですよ。二十数年前、その店で働く従業員は生き生きとして格好よかった。当時は三〇人のアルバイト募集に五〇〇人が殺到したといいます。それがいまやどうですか。店ばかり増やして安売りして、従業員にとってはしんどく、格好悪いだけですよ。そんなところで働きたいと思わないでしょう。

マスコミはそういった従業員の気持ちの変化を、もっとクローズアップすべきではないでしょうか。

(文責・岡安)

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