関西版 オイシクする人シリーズ 京料理「藤や」藤谷礼子さん

1997.06.02 128号 16面

古都・京都には伝統に育まれた幾多の存在があり、そのいずれも魅力いっぱい光り輝いている。伝統の技で磨かれた「京料理」は、旬の味を、目で楽しみ、器を愛で、舌で確かめる総合芸術作品の趣がある。

四季を映す高瀬川のほとり、三条木屋町に在る「京料理 藤や」は、季節のささやきを、料理に、もてなしに生かすことが“伝統”を受け継いだ者の使命と考えており、美人の誉れ高い若女将・藤谷礼子さんは茶道の精神と理念を“もてなしの心”として京料理をいっそうオイシク提供してくれる。

礼子さんは、京都洛北・貴船の京料理の老舗に生まれた。父は九代目の当主で順当なら彼女が一〇代目を継ぐはずだったが、その父が彼女が二〇歳を迎えたところで早世し、一挙に逆境に押しやられる。

現女将である母親の美都子さんに協力・加勢し、新たに築いた母と娘の“城”が平成元年誕生の「京料理藤や」である。

京料理を引き立たす着物姿もあでやか、立ち居振る舞いに目を奪われてしまう。それもそのはず、茶名(宗

礼)を与えられた裏千家の茶人である。

地元平安女学院から芦屋大学英文科に進んだ彼女は、高校時代はスキー、大学時代はバスケットに熱中するスポーツウーマンだったが、高校三年から日本固有の伝統文化「茶道」に入門、裏千家家元にも資質を愛でられ、直接の指導者にも恵まれメキメキと上達した。

ヒマワリのような陽光一杯の青春を謳歌していた彼女に思いも寄らぬ父の早世、その後の「コップの中の嵐」の悲痛体験を救ってくれたのは「茶道」だったと述懐する。

「お家元が、父を早く亡くした可哀想な娘」と温情を掛けて、下さった茶名と謙遜するが、謙遜といえばもう一つ、「大学一年の時に、イギリスで一ヵ月ホームステーし英会話を学んだのですが、話せたのはイギリスにいる間だけで――」とのことだが、卒業後、諸外国で開催された「日本週間」などに、千宗室家元の率いる日本文化使節“茶道チーム”に三度選ばれ、親善の大役に貢献してきた。英語ができる女性、として重宝されたのは間違い無いところだろう。

母の美都子さんは、水上勉の小説「貴船川」のモデルにもなった素敵な女性、磨き抜かれた京料理を美人の母娘でもてなせば、店は大繁盛、客が客を呼ぶ好循環となり声価は高まるばかりである。

その母の背中を眺めることが最高の教科書となりましたという礼子さんは「お客様に対するおもてなしが命の職業ですから、真心を込めておもてなしするのは勿論、会話の端々にも細心の注意を払うよう、いつも教えられてきました。精一杯お尽くししたか、ご満足いただけたか、解答をいただけるのはお帰りの際にお客様がお顔で表現して下さいます。いつもこわごわ拝見して安堵したり、反省したりの日々を送っております」と緊張の連続だという。

現在三四歳、不動産鑑定士の夫との間に一男一女のかわい子供を持つ母でもある。「大好きなゴルフもおあづけで子育てに懸命」と笑うが、休日と働く時間帯がすれ違うため、若女将・妻・母の三役の上に気苦労も加わる。もうひとつ母に対する娘の立場もある。

物理的な多忙の他に、精神面においても伝統芸術にまで昇華した感のある「京料理」を、より魅力を加味し次なる継承者に伝えねばならぬという使命感が常につきまっとっている。

改めて、彼女のおもてなしの心を問うと「お茶と一緒で、お客様と接待する者との間に、最初は少し緊張感があり、お酒で唇を濡らしていくうち、だんだんとおいしいお酒とおいしいお料理でお客様のお顔がほころび始めてきます。そのあたりのタイミングを見計らいながらおもてなしし、喜びの笑顔を見せて下さるようになる、この時に自分自身も幸福感を味わいます」。

また、京料理の魅力につての彼女の想いは「何十年も修業をなさった板前さんが先人の技と教えを生かし常に季節を料理という姿で創造・演出しているというとろに最大の魅力を感じます。会席料理が主となりますが、お年寄りや子供にも優しい料理で、量そのものも加減することができます」。

「私としては、今も一〇代目の意識で綿々と受け継いできた当家の理念を損なうことなく努めたいと思っておりますが、これからは単に伝承するだけではなく、自分自身の感性と時代のニーズをいかに加味することができるか、いろいろと模索しております」と目を輝かす。

そして最後に「京料理と構えることなく、気楽に若い人たちにも愛していただきたいし、また、そんなお店づくりを心掛けたいと考えております」と結んだ。

「京料理 藤や」

京・木屋町三条上ル一筋目西入(電話075・252・1811、FAX075・241・2792)

▽お昼のおもてなし・五〇〇〇円~一万円▽夜のおもてなし(懐石料理)・一万円から

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