新業態の活況と淘汰の暗雲 97年の外食に何が起きるか
九五年の阪神大震災、オウム事件、九六年O157のようにまったく予測できなかったことが起き、業界に大きな影響を与えるようなことがまた九七年にあるかもしれない。どういうことが起きるかまったく予測はできない。
ただ、今までの飲食業界の流れと、社会の動きを整理して行けばおおよその動きは予測できる。一言でいえば、今年は本格的な「淘汰の時代」の幕開けになるだろう。
この業界は社会の景気に左右される部分が大きい。バブル期の前後が好例だ。バブルの夢よもう一度と願っている人は、まさかもういないだろうが、景気の回復に期待している人は多いだろう。
景気はどうなるか?私は、「景気は少なくとも五年、長ければ一〇年は現状のまま、底をはっている」と予測する。これ以上悪くなる要素もない代わりに急に良くなる要素もないという状況だ。
ただし、われわれの業界にとってはますます厳しくなってくる。それは新規参入が増えていることだ。それは三つの方向からである。
一つはリストラをやり終えて体力をつけた大手の出店攻勢。今まで通りの出店と店舗を小型化し今まで出店できなかった立地での出店の二通りがある。マクドナルド、すかいらーくなど。
二つ目はまったく異業種からの参入。景気が横ばいで本業の伸びが期待できない企業が、不景気の中でも毎年業界としての市場規模を着実に増やしている飲食で地歩を固めようというものだ。バブルの時代にも同じ傾向があったが今回は飲食を十分に研究した上での参入である。バーガーキングを展開するJTなど。
三つ目が個人での参入である。団塊の世代で大企業で働いていたが、肩叩きで退職し退職金を貰い独立開業するケースと大企業に失望し就職せずにフリーターで金を貯めベンチャーとして独立するケースだ。どちらのケースでもまずFCでノウハウを学ぶことが多い。この成功例がワタミということになる。
これらの新設店の攻勢により既存の店舗の売上げがますます悪くなるだろう。そのとばっちりをもろに受けるのが最も弱い生業店となる。したがって、九七年は生業店の廃業が目立ってくると思われる。生業店が今までのぬるま湯から出て真剣に戦わなければこの状況からは抜け出せない。
新規参入は、参入障壁が低いこともあり、この業界の宿命である。成功しようという意欲に燃える新規参入者以上に、既存店は新しい武器を持って戦わなければならない。何も変えずに守ってだけいてはジリ貧にしかならない。
武器のうちで最も威力を発揮するのが、価格破壊による安値の提示である。安値による販売は、来客数の増でカバーできれば良いがそこまでは難しい。したがって人件費その他の経費の崩壊までが必要となる。
価格破壊は、大手にとって絶好の武器となった。低迷していた売上げを一気に伸ばした。しかし一方で特に投資の抑制によるチーブな店と人件費削減によるサービスの低下を招いた。一度安値に走った大手はもう戻れない。数十店、数百店の軌道修正は至難の技である。
大手がその方向に走れば走るほど、それに飽きたらないお客様が増えてくる。
値段は少しくらい高くても、もっと良い雰囲気、もっと良いサービス、もっとおいしい料理を望むお客様だ。
大きな図式としては、すべての業種、業態において「安さ」で勝負するところと、「高いけど付加価値」を明確にしたところに分化してくるだろう。そして、昔ながらのやり方で中途半端にしかやれないところが「淘汰」される。
一〇年間真面目にコツコツと商売をやってきたが、この数年はお客様はどんどん減ってきている。ウチは何も変えていない。お客様が悪いんだと考えても何も解決しない。
一〇年もあればほとんどのものは大きく変わってくる。私自身でも一〇年前は洋食ばかり食べていたが、今は和食主体に変わった。お客様は変わって行くものだ。
困った時には原点に戻ってみよう。飲食業の原点とは何か。「お客様に満足していただく」ことである。一〇年前牛肉は憧れの食材だった。今は輸入牛が安く手に入り日常的に食べられるようになった。ステーキ店で一〇年前も今も同じようにお客様に満足していただくためには、何かを変えていかなければならないはずだ。
牛肉で見ても、輸入牛のインパクトは大きかった。ステーキ店は大きな影響を受けた。すべてのステーキ店がおかしくなったかというとそうではない。工夫することでこの危機を乗り切り相変わらず繁盛店であり続けている店もある。
大切なことはマーケティング。手法は簡単。自分の店のお客様が誰かを見極めること。そして客層を絞り込むこと、絞り込めばそのお客様たちが何をすれば満足するかが分かってくる。
学生・若者を自店の客層ととらえれば、安くてボリュームのあるステーキを考えれば良いし、中高年を狙うのであれば、和牛を中心として雰囲気と演出、サービスを売り物にすれば良い。両方狙ったら絶対に失敗する。
誰をターゲットにするのか、何を自店の売り物にするのか明確にすることだ。
長年この業界に携わってきてつくづく思うことは、幸福な業界だということだ。まず市場規模が確実に広がってきていること。そして「努力すれば確実に報われる」ことだ。
ただし、努力しなければ確実にツブレてゆく時代に入ってきた。そういう危機感を持って、勉強し、努力して行けば大手も怖くないし、十分に勝って行ける。「お客様の満足」という原点を改めて見詰め直してほしい。