飲食店成功の知恵(97)繁盛編 1人客を大切にしよう

1996.10.07 112号 16面

あなたは「一人客」について、どう考えているのだろうか。本当に大事なお客様としてもてなしているだろうか。二人以上のお客と差別した扱いをしていないだろうか。一度、素直な気持ちで反省してみてほしい。

というのも、飲食店は意外と「一人客」を軽く考える傾向があるからだ。理由は単純明快。客数を稼げないからである。最近は一人客を想定して、相席に不自然さのない大テーブルを用意したり、二人掛けテーブルにしているお店も増えてきてはいるが、ほとんどのお店は判で押したように四人掛けテーブルが基本になっている。本来は四人のお客のためのテーブルを一人客に占領されてはたまらない、というわけだ。

考えてみればこれは、ずいぶんと身勝手な理屈だということが分かる。一人で来ようが四人で来ようが、それはお客の勝手である。そもそも、一人で飲食店を利用するというのはだれしも、何となく気の引けるものだが、これは、飲食店側の一人客を軽んじる態度に起因しているといって間違いない。それにもかかわらず、わざわざ一人で利用してくれるお客に対してぞんざいな扱いをするなどということは、サービス業としてもってのほかである。本当に一人客を迷惑だと思っているのなら、表に「一人客お断り」と書き出しておくべきだ。

一人客を軽んじているお店は、接客態度からすぐにそれと分かる。例えば、四人掛けと二人掛けのテーブルのあるお店で、混雑したときの対応を考えてみよう。

四人掛けテーブルには二人客がいて、それぞれ空いているイスに荷物などをのせている。二人掛けテーブルには一人客がいる。そこに、また一人客が入ってきた。従業員は迷わず二人掛けテーブルに案内し、さも当然というふうに「相席をお願いします」と事務的にいってお客を座らせた‐‐この時、二人掛けテーブルに詰め込まれた一人客はどう感じるだろう。どちらの一人客も、肩身の狭い思いをしたに違いない。

たしかに二人掛けテーブルの方が、相席してもらいやすい。だから、その点では従業員の判断は間違ってはいない。しかし、一人だからという理由でお客に、不当に肩身の狭い思いをさせては失格である。一人客に無理をお願いするのだからこそ、どちらの一人客に対しても丁重に対処すべきだった。

こういう扱いを受けたお客は、二度とそのお店は利用しないだろう。飲食店はほかにいくらでもあるのだから。そして多くのお店は、こうしてお客を失っていることに気付かない。

なるほど、一人客の売上げは二人客の半分でしかない。しかし売上げは総客数で決まるということを忘れてはいけない。一番大事なのは個々のお客の来店頻度なのだ。目先の売上げは小さくても、月に四回来てくれれば四人客と同じわけだし、口コミも期待できる。

一人客が快適に過ごせるお店は何人で行っても楽しいが、その逆はないと思われていることを、真剣に考えるべきである。「一人でも居心地の良いお店」になることが、繁盛店への近道なのだ。

また、小規模店の場合は一人客にはカウンター席を利用してもらうのが当たり前だ。お客もそれくらいのことは分かってくれている。しかし、同じカウンター席でも、お店の考え方次第で居心地感は違う。一般に、飲食店の基本はテーブルサービスのため、まずお店の側に「カウンター席は悪い席」という先入観がある。だから、極端にいえば「カウンターで我慢しろ」という態度になってしまう。

しかし、一人客の大切さを知っているお店は違う。カウンター席を「一番良い席」にするように努力している。この違いを、あなたはどう受け止めるだろうか。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら