食文化:名著の小窓=永井荷風著『冷笑』(1911年刊)

統計・分析 総合 2006.01.18 9600号 16面

東京ぢゃ、やはりあなたのおっしゃった鮨と天麩羅(注=てんぷら)の立食でせうよ。鮨は魚河岸の朝、天麩羅は広小路の夜深(注=夜更け)と極まっています。妙ですな、同じ食いものでも場所が悪いと食う気になれない。物をうまく食うには、料理よりか周囲の道具立ての方が肝腎なものです。 夜更に芸者屋町などを通る時、饂飩(注=うどん)、饂飩と寒そうに呼ぶひと声、それを聞くと、それほど腹が減っていなくても、何となく一杯、あの薄暗い路地の入口で、赤い行燈のかげに野良犬と一緒に

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