10年後を見据えた飲食店の課題 専門店・和食=接待需要からファミリーへ

1997.12.15 142号 20面

和食の世界には逆風が吹いている。証券会社、銀行の破綻と官官接待の自粛により高級な和食店の経営が成り立たなくなっている。証券会社の周囲の高級天ぷら店などが閉店をせざるを得ない状態となっている。客単価が一万円以上の和食の店舗はよほどの特徴がないと生き残れないだろう。従来のように名声店であるということにあぐらをかいていると苦戦を免れない。

先日、築地にある超有名料亭の銀座支店で食事をした。出てくるメニューを聞いてもサービスする人は全く答えられずいちいち板前に聞かなくてはならない状態だった。その板前も「この素人」がという客を馬鹿にした態度で答える状態で、すっかり気分を害してしまった。それでものすごくおいしければまだ良いのだが、大した食事ではないときている。特にがっかりしたのは料理の盛りつけに工夫が全く感じられなかったということだ。

和食といえば京都が本場だが、京都の料理はお高く止まって料金も無茶苦茶に高いというイメージがあるようだ。しかし、本当の京都の老舗の店は顧客の動向をしっかり把握し時代に合った料理を出している。最近の京都の料理界の若手の先頭を切っている懐石割烹菊の井がその典型的な老舗だ。

料金も、若い方が個人で利用できるようにと夕食で一万二〇〇〇円~一万七〇〇〇円のコース。注文し、料理がくるとまず各料理ごとに説明が必要かどうか丁寧に聞いてくれる。お願いすると料理ごとに材料と料理の料理法などを丁寧に説明してくれる。京料理が初めての若い方でも恥ずかしくなく説明を聞けるというのはうれしい心遣いだ。料理の味もすばらしいのだが、見た目の盛りつけなどの色彩感覚にも優れて女性は思わず見とれてなかなか箸をつけられない。

京都料理というと見る目はきれいだが、量が少なく物足りないというイメージが強いが、菊の井のポリシーは異なる。若い人でも食べきれないたっぷりとした量を出すというもの。お腹がいっぱいになったコースの最後に、秋だったら松茸ご飯をたっぷり出す。「もうお腹がいっぱいで食べられないよ」と言うと、ではお土産にどうぞといってたっぷりとしたご飯をお土産に詰めてくれる。家に持って帰ると家族がおいしいといって喜び、ぜひ次はつれていってくれといわれる。高級な和食でも気取らないサービスを心がけているので人気の京料理の店舗だ。老舗でも常に初心を忘れず一見の客といえども大切にするという心がけが大事だという例だろう。

景気低迷の時代には接待需要は低下し、実質的な料理を家族や友人と楽しくカジュアルに食べられる業態に人気が出て、より低価格なカジュアルな和食がでてくるだろう。このジャンルで注目を浴びているのが大阪のちゃんとフードサービスの新業態の橙家だ。本格的な和食を四〇〇〇円台で提供し大繁盛店となっている。

接待需要が低迷し壊滅的な状態の北新地の料理屋から、やる気のある若い板前を採用し、本格的な和食を低価格で提供しようという形態だ。安くても店内の雰囲気に気を遣ったので、若い女性だけで和食とお酒を楽しむという新しいジャンルの開発に成功している。

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