で・き・る現場監督:かつ哲総本店店長・田渕資幸さん

1998.05.18 152号 13面

よいレストランにはよいギャルソンがいるという言葉通り、店全体を統括する田渕資幸店長の動きはムダがなく、しかもゆき届いた心配り、目配りに満ちている。四歳の時から空手で鍛えたという体に、赤いネクタイをびしっと決めたスタイル。「いらっしゃいませ!」の第一声から、お客様の誘導、厨房やスタッフへ指示する声も威勢よく、磨かれた割烹料亭風の店には活気がみなぎっている。

八年前に(株)哲學に入社した田渕さんは、五年の修業の後、とんかつの店「かつ哲」のオープンとともに店長に昇格。店は初年度から当初目標の月商一二〇〇万円をクリアし、現在は平均一七〇〇万円の数字を維持。ただし、店長としては順調なすべり出しではなかったという。

「二二歳で店長になり、『やってやるぞ』という意識ばかりが先行していたんですね。こちらが何か言ってもスタッフは全然ついてこない。頼んだことが伝わらない。自分がいる時といない時では店の雰囲気が違ってしまう。そんな空回りの時期を脱するのに一年ほどかかりました」

本部の社長や洋服店を経営する友人のアドバイスを聞きながら、スタッフに対して思いやりのある態度を示してこなかったことを反省。「自分が繁盛させる、ではなく、皆の力があるから繁盛する」という風に気持ちを切り替え、「なるべくスタッフ一人ひとりとコミュニケーションをとり、そのとき聞いた(店や自分に対する)意見は後で必ずノートにつける」などの対応をしていった。

「それでも『そんなこと言うんなら、代わりに店長をやってみろ!』と言いたくなる時もありました。でもこれを越えれば、人間関係をうまくやっていければ自分も店も成長すると考え、謙虚に話を聞くことができたのです」

「性格的に弱音をはくことができないタイプなのですが、悩みごとがある時は、『お客様はこう言っているけれど、どうすればいいだろうか』とスタッフに相談し、意見を聞くことも大切なんですね。そうやって皆で知恵を絞っていくなかで、店を盛り立てていこうというムードが出てきました」

また、半年前から月に一~二度ミーティングの席をもうけ、テーマを決めて全員に発言してもらうようにしている。

「テーマは経営に関することから『カゲ口をなくす』までさまざま。でも、それぞれが思っていることを口に出すことで、風通しもよくなってくるんです。スタッフの年齢は社員や学生バイトが一〇~二〇代、主婦パートは四〇代と幅がありますが、人間関係のトラブルはなく、バイトも定着してきています。また、そういう関係が作れてこそ、『今月は売上げが足りない。ならサイドオーダーに力を入れよう』と力を合わせることができるんだと実感しています」

二二歳にして一国一城の主となった田渕さんの今後は「一店だけではなく、複数店舗を見れるスーパーバイザーになるのが目標。そうして人間的にはカドがとれて丸くなるのではなく、大きく丸くなりたいですね」

◆「(株)哲學」(本部=群馬県高崎市筑縄町四-一〇、電話027・364・3600)

斎藤浩代表取締役社長は脱サラ組。一九八三年にこだわりのコーヒー専門店「珈琲哲學」をオープンさせ、以降コーヒー店舗六店(直営二、FC四)、とんかつ店舗四店(6月には一店増えて五店)を展開中。ポイントカードの導入や店の評価アンケートを実施するなど、顧客サービスに力を入れる。なお、とんかつの肉は県内産の「もち豚」を使用、やわらかくジューシーな味わいでファンを増やしている。年商約一〇億円。

◆たぶち・もとゆき(かつ哲総本店店長)=昭和47年、群馬県出身の二五歳。独身。高校卒業後(株)哲學入社。かつ哲総本店オープンにあたり店長に就任。社員三人、アルバイト三五人を指揮、「親分肌」で頼れる存在となっている。勤務時間は午前11時~午後11時。休日は週一回(店は年中無休)。ドライブを兼ねてガールフレンドや仲間と東京や近郊へ食べ歩きに出掛けることが多い。趣味はいまのところ「仕事」。帰宅後は人の心を学べる読書に時間をさく。睡眠時間は平均五~六時間。

*「かつ哲総本店」(群馬県高崎市下小鳥町六八、電話027・363・4188)店舗面積一〇五坪、一〇八席。三世代ファミリーがターゲット。駐車場台数二八

自分のモットー

1(自分のなかで)弱音をはかない

2(自分が悪くなくても)言い訳をしない

3(人の悪口などの)グチを言わない

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