これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(9)低迷続く神戸ランプ亭
牛丼チェーンといえば、「吉野家」「松屋」「なか卯」「すき家」「神戸らんぷ亭」が代表的なチェーンである。吉野家は西武セゾングループであり、松屋、すき家は、吉野家のFCや幹部が独立してつくり上げた独立系のチェーンである。
両社とも店頭公開を果たした優良企業だ(裏実態は後日にお話しする)。そしてなか卯は、モスバーガーが、倒産しそうになった京都の吉野家のFCを買い取り、モスのFCオーナーに“次の金儲けの手段”として紹介している牛丼チェーンである。
このなか卯は、これらのチェーン店中、今一番出店数の多いチェーンである。それは吉野家や松屋のように一等立地を狙わず、モスのセカンド(二等立地)戦略ゆえに、どこにでものべつまくなしに出店する無節操な出店戦略のおかげであるが、それによって業績が上がらず泣いているオーナーが存在しているようである。
さて、いよいよ本題の神戸らんぷ亭である。今から九年ほど前に出てきたダイエー外食グループの牛丼チェーン店で、現在三八店舗程度の布陣である。しかし、東京を中心とした首都圏にしか出店していないため、神戸らんぷ亭を地方の人はご存じないかもしれない。
神戸らんぷ亭は、天下のダイエーが、吉野家を西武セゾングループに取られた腹いせに“うちだってあの程度の牛丼ビジネスくらいできないはずがない”と高をくくってやり始めたチェーン店といえるだろう。しかし、その簡単なはずの牛丼ビジネスで、今大苦戦を強いられているのも事実である。
吉野家・松屋の一店舗当たりの月商額が約一二〇〇万円以上なのに比べて、神戸らんぷ亭の月商額はおおよそ五〇〇~八〇〇万円程度しかないのだ(内容が発表されていないので推測)。二四時間営業、東京都心部・ビジネス街への出店なので、家賃人件費がやたら高いところが多く、週休二日のため土・日は閑古鳥が鳴き、ひどい時は二四時間で七万円程度しか売上げがない日もある。
すべてコストが高いので、これらを差し引くと完全な赤字営業ではないのか。ひどい店になると、月商四〇〇万円台で低迷していた店すらあるとか。そんな店はとうの昔に撤退しているが、ダイエーのリストラされた社員がオーナーとなってやっている店もあり、やむにやまれず営業を継続している店も多いという。
では、どうしてこうなったのか。原因は次の七項目である。
(1)牛丼ビジネスは、ダイエーという大企業意識ではできないものである。
(2)最初、吉野家との差別化を意識して、カウンターを取り除きテーブル客席としたこと。
(3)吉野家との差別化のため、牛丼普通盛りを二九〇円に設定して安売りを仕掛けたこと。
(4)当初、四〇%の売上げを占めていた「牛肉の卵とじ丼」を、作業に手間がかかると中止した。
(5)店舗配置員が、ダイエーのリストラ社員で“島流し意識”が強く、モラルが低かったこと。
(6)牛丼ビジネスは、しょせん“早食いの飯屋”にすぎないものなのに、大げさにやりすぎたこと。
(7)不振が続き、ダイエーの政策変更が頻繁に行われ、不振脱出の機会をつかめなかった。
特に(2)と(3)と(4)の問題点が、決定的に不振を呼び込んでしまったのである。
牛丼ビジネスはだれにでもできるビジネスである。しかし、カウンターを使い、人手を無くし、単品メニューに絞り込み、便利で近いところにあるから気軽に行けて食べられるし、効率が良いのである。いかに吉野家と対抗するからといっても、このカウンターの廃止と低価格はいただけない(最近の二年間でカウンターが設置され、価格も改定=値上げされた)。
低価格を実施しながら、低価格に見合うローコストのシステムがなかったのだ。その結果は当然赤字である。赤字になるからモラルはもっと退化する。しょせん飲食業は、そのお店の人材、その人のやる気がすべてを決めるのである。
そして一番の不振原因は、(4)だ(神戸らんぷ亭では最近、牛肉の卵とじ丼が復活したが、時既に遅しである)。何だかんだ言っても、牛丼がうまくなきゃ駄目なのである。
この牛肉の卵とじ丼をいかに早く出すかの工夫と、調理器具の開発とトレーニングの徹底があれば、こんな低迷はなかったのではないだろうか。どんな調理人に聞いても、卵とじにどれだけの時間がかかるだろうか。四〇%も売れていた大ヒット商品を、自ら放棄し低迷に甘んじたばかな事例の見本である。
このように見てくると、ダイエーという天下のスーパーが、何もあのような“早食い飯屋”の牛丼ビジネスまでやることぁないと思うのだが。しかし最近の神戸らんぷ亭は、ダイエーそのものがあの大赤字決算以降、わずかに企業体質が変わってきたことで、立ち直りの兆しがほんのわずか見えてきている。
カンパニー制の導入で、外食事業も権限が大幅に委譲されたことで、やりやすくなったようだ。それにビックボーイやドムドムを支えてきた優秀なスタッフがかかわることで、神戸らんぷ亭の立ち直る日は近いはずである。神戸らんぷ亭の、今後の大いなる躍進を期待したいものである。
(仮面ライター)