焼き肉最新動向 新店ウォッチング「カルビ大将」
名古屋に本拠地を置き、東日本で廻転寿司チェーン「アトムボーイ」を展開する(株)アトムが、新業態の焼き肉店「カルビ大将」を引っ提げて首都圏での展開を計画している。
同社は中京地区を中心に廻転寿司「アトムボーイ」をはじめ、和食「えちぜん」、とんかつ「かつ時」、かに料理「蟹や徳兵衛」などを合わせて三〇〇店以上展開している。すでに首都圏にも数業態が進出しているが、今回の「カルビ大将」馬事公苑店は、地元名古屋での実験店を経て、福井で成功を収めた同社の新業態である焼き肉ファミリーレストラン「カルビ大将」の実質上の二号店である。
郊外チェーンのドル箱地帯
馬事公苑店は、都内から町田方面へと向かう世田谷通りに面して、背後に馬事公苑、通りを挟んで向かいには東京農大という、チェーンの出店担当者ならだれもが知っているロケーションにあり、周辺にはスーパーや大手ビデオレンタル店、ファミリーレストランなどが集積している。
この世田谷通りの環七から環八にかけてのエリアは、いわゆる郊外型チェーンのドル箱地帯であり、実際、同店の並びにあるロイヤルホストは、今から二〇年近く前に既に超繁盛店であり、ロイヤル社の首都圏展開の基礎を築いた店のひとつだ。
この馬事公苑店は、他社のピロティー型店舗を取得し、改装してオープンしたものだが、同社が回転ずしでつちかった効率化のノウハウが随所に生かされている。
定番料理中心価格に訴求力
店舗内外装はローコストでありながら楽しい雰囲気を演出しており、オペレーション面でもSA機器類が最大限に活用されて、アルバイトでも十分に対応できるシステムとなっている。
店内のフロアは、客席部分やトイレなどを除く作業動線上の通路がすべて同レベルでフラットに作られており、ワゴンや清掃機器などを無理なく移動できる。
商品は焼き肉店の定番料理が中心であるが、大将カルビ、大将ロースがともに六三〇円、キムチが三八〇円、ユッケビビンバが七八〇円といった価格帯には十分な訴求力があり、この価格帯で月商四〇〇〇万円近くを売上げている。
臨店時に見かけた従業員は若い人たちばかりであったが、みなアイドルタイムの作業を黙々とこなしながら、注文や問いかけにも嫌な顔ひとつせずに誠実に対応してくれた。特に接客がうまいというわけではないが、最大の財産は、この若い従業員たちだと感じさせる店であった。
◆「カルビ大将」馬事公苑店=東京都世田谷区上用賀二‐四‐一六、Tel03・5477・3550/坪数・席数=二八〇坪・一五六席
取材者の視点
筆者が訪れたのは平日のランチタイムを過ぎた午後3時ごろであり、この業種からすれば当然のごとく店内には一組のお客もいなかった。これで月商四〇〇〇万円近くを売上げているのだから、ピーク時の状況はおのずと想像できる。
この店の店舗施設上の最大の欠点は、駐車場の入りにくさである。敷地がT字型の交差点の交わったところに位置しており、メーンの導入動線はその交差点の直近にあるため、ほとんどのクルマ客は世田谷通りの下り方向からしか入ることができない(正確には、裏の馬事公苑側からの導入もあるのだが、一度来店したお客か周辺地理にかなり詳しい人間以外には分からない)。しかも、この交差点の周辺は二〇年前から、世田谷通りでも常に渋滞しているボトルネックのひとつなのだ。
せっかく幹線道路に面しながら導入動線が悪いというデメリットは、マインドシェアが確立されていない新業態にはつらい。テリトリージャンプせず沿線での知名度を高めれば、さらに売上げは伸ばせるのではないだろうか。
ただ、かつてはハレの食事の典型であったすしが回転ずしやスーパーのすしによって二極分化したのと同様に、焼き肉もまた多くの企業の参入により様変わりしつつあると言える。現在の価格帯と商品は、現状では、初期の回転ずし郊外店が安さと明朗会計で爆発的にヒットしたのと同じような効果をもたらしているのだろうが、それがどれだけ続くのかはだれにも分からない。
現在の首都圏におけるチェーン展開の最大の課題は物件の取得にあるのだが、経営資源を投入し、ドミナントで一気に出店することができるかどうかが、業態確立のカギになると思われる。
◆筆者紹介◆商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけた後、SCの企画業務などを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。