これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(17)スナックラーメンの限界

1998.10.19 164号 10面

関西以西の方や、東北から北の方はご存じないだろうが、名古屋を中心にえらくはやっているラーメンと甘味のチェーン店がある。髪を編み上げたかわいらしい女の子、スーチャンの愛称でおなじみの「すがきや」チェーンである。

名古屋駅(名駅)前の地下街の、一番奥の一番悪い場所にあるこのチェーンの一番店(恐らく)では、日曜日ともなると若い子たちの行列ができて終日途切れないのである。これはすごい店だなと思い、思い切って入ってみた。

店内は割と広いが、その騒音たるやすさまじい。ザワザワガヤガヤと話し声が聞き取れない。でもよく客層を見ると、納得。客層が若すぎる。何とこの店のメーン客層は、小学生なのである。しかし店内を眺めると子供たちに人気の理由がよく分かる。なぜなら非常識なほど低価格だからだ。

何と、ラーメン一杯が二八〇円なのである。日本広しといえども、ラーメン一杯二八〇円という値段に優るラーメンはどこにも無いだろう。故に子供たちにとっては、彼らの少ないお小遣いで十分満足できるメニュー価格なのである。しかし「これで採算合うのか」と、お客のこちらが心配になってしまう。

表1は、日経流通新聞の外食ランキングより、「すがきや」を展開している(株)スガキコシステムズの資料から作成したものである。

では早速、すがきやのラーメンをいただこう。白いスープにカツオだしの味がする。ムッと、魚の生臭い香りがして、これって好き嫌いがあるな、と第一の感想。次は麺。割合細い麺だが、縮れが少ないのでスープが絡まない(恐らく一玉一二〇gくらい)。

そして具。ありゃ、こりゃまた薄いチャーシュー(五〇〇円玉三枚程度の大きさ、厚さは名刺三~四枚程度)だな。そのほかはシナチクが三~四本、これが、すがきやのナンバーワン商品である。正直言って、味になじみがないし満腹感がない。

どのように考えても、これはおやつ(スナック)ラーメンである。だから大人が一人も入っていないのだ。客単価は恐らく、五〇〇円以下だろう。

名古屋・中部圏で、すがきやは、大手スーパーのフードコートを中心に出店しているが、年々売上げを落としてきていると聞く。関東から以北では、出店より退店が多くなっているようだ。

社員一人パート一人という人員体制も問題だろう。度の過ぎたローコスト運営は、惨めな雰囲気の店を生み出し、ますますお客を逃がしているようである。これは、おやつ(スナック)ラーメンの限界を意味しているのではないだろうか。

それではラーメンという食べ物は本当にスナックのようなものか。とんでもない。ラーメンは立派な食事メニューである。今はやっている各地のラーメン屋は、客単価九〇〇~一〇〇〇円である。そして今も、その店の前には延々と行列が続いているのである。一体、この“スナックラーメン”と“料理ラーメン”の違いは何なのか。

チェーンストア系のラーメン屋には、おやつみたいなラーメンを出すところが多い。すがきやはその典型だが、福島・宮城方面には「会津っぽ」があり、九州からは「リンガーハット」がある。どの店もファストフード的にカウンターがあり、セルフサービス的で標準化された店が多い。

そしてこれらの店が、いまでも各地ではやり続けているのかといえば、その答えは残念ながら「NO」に近い。確かに立地によっては、前出のすがきや名駅地下の店のように、小学生で満員の店もあるが、そのほとんどが近くに本格的なラーメン屋ができると、即座に敗退の憂き目を見ているようだ。

何故、これらの店が競合に弱いのか。それはチェーンストア理論に基づくメニュー政策にある。

チェーンストアの人たちは、まず価格から考える。すがきやのラーメン価格は、お客さまの望む価格であるという。確かに小学生はそれを望んでいるかもしれないが、大人はどうなるのか。会津っぽは中学生・高校生対象の価格である。でもわが日本の一番のマーケットは、大人層、家族層ではないのか。

スナックラーメンを食べに、家族が夜の食事を楽しみにその店にゆくだろうか。答えははっきりしている。簡単な昼食や、お腹の空いた時のスナックに食べるかもしれないが、夜には絶対行かないお店である。

チェーンストアは、メーカー支配を打ち破り物価を劇的に下げ、経済民主主義を実現するというが、こんなスナックラーメンが大手を振って歩くそんな民主主義体制なら、反革命がすぐに起きて打倒されるはずである。何故なら、お客さまは“本当にうまいラーメンを食べたい”と心から願っているからだ。

われわれも含めてお客さまの味覚は、スナックラーメンより料理ラーメンを求めている。二四時間豚のあばらの脊髄を煮てスープを煮出し、それを何度も何度もこしてあくを取り、白味噌とさっと合わせて豚骨味噌ラーメンが出来上がる。

チャーシューは、コトコトと長時間かけて軟らかく煮、煮きり醤油で味付けする。口に含むと、とろりととろけそうな分厚いチャーシューが二枚乗っている。海苔は生のふ海苔。そして、ホウレンソウをさっと湯がいたおひたしが少し。麺はたっぷり一七〇gの縮れ麺。

これがわが家族が、いつも行く行列のできるラーメン屋さんである。こんな田舎でも、週末はいつも行列で三〇分は待たされる。つまり本当のお客さまのニーズは、スナックラーメンより料理ラーメンであり、夕食時に家族で行きたいお店こそ求められている。またそれが、飲食業を営む者の料理への挑戦であり、お店を経営するだいご味ではなかろうか。(仮面ライター)

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