で・き・る現場監督 ラーメン屋壱番亭・スーパーバイザー永藤弘さん
永藤さんに話を伺う前に、一般客として店に入ってみた。ロードサイドの小ぎれいな店舗は平日の午後2時すぎでも大盛況。ホール、厨房から「いらっしゃいませ」と気持ちのいい声がかかり、いちげん客の緊張が解ける。
ラーメン(五三〇円)は、スープ、麺、チャーシューとも三拍子そろったうまさ。いま流行のコクのあるスープは、盛夏時「あっさり」が恋しくなるかも…と思ったら、ちゃんと「店長おすすめメニュー」に涼しげな“ざるラーメン”が。
サラダや唐揚げなどセットも充実し、再来店意欲をかきたてられる。加えるとトイレのシンプルな内装と清潔度も◎。さっそく永藤さんに登場願う。
「とにかくラーメン屋をやりたくてこの道に入りました」という永藤さん。壱番亭本部の(株)建昭商事に入ったのが一〇年前。当時は別チェーンの傘下だったが、五年前に「壱番亭」としてオリジナル店を立ち上げた。永藤さんはその時の主力メンバーで、メニューや店づくりに絶対の自信がのぞく。
店長兼任の下館店は前年比二けた増で月商一一〇〇万円(三六坪五七席)。スーパーバイザーとして管轄する他店も同様に伸ばしているが、その秘けつを「商品の質、サービス、店舗の清潔さの徹底」とする。例えば麺とスープは本部からの配送だが、国内産豚肉チャーシューは各店自作。
「自社のセントラルキッチンでも作れますが、店ごとに『プロ意識』を持ってもらうことの方が大切。手作りの自負があってこそ、提供するときの自信につながります」と永藤さん。もちろん店ごとでブレないよう、作り方の統一とさらに良いものへの挑戦は欠かさない。
この6月からは野菜の一括仕入れを開始。「市場から直で配送するため、鮮度(味)がアップ、コスト削減にもなった」そうだ。
メニュー開発にも力が入る。季節物で始めた「野菜たっぷりラーメン」は定番昇格。「台湾ひと口春巻」「鶏の唐揚げ」等の単品充実で居酒屋機能もクリア。
サービスを提供する働き手の質の向上もポイントだ。「単にラーメンを作り、提供するのではなく、『お客さまの満足は自分の喜び』と認識してもらうことに時間をかけます」と永藤さん。働くのは収入を得る手段だが、同時に仕事を楽しく、満足いくものにするのも可能だ。
そんな働き方が相手を喜ばせ、店が繁盛し給料にはね返る。作業として仕事を教えるにとどまらず、そうした心のマニュアルを伝えることに力を入れる。
二年前に下館店で「手紙作戦」を展開したことがあった。社員各人が「喜んでいただくために一同努力して」おり「さらに皆様から教育してほしい」旨をハガキに手書きし、毎日五通、商圏内の住民宛二ヵ月間出し続けた。これで一気に一〇~一五%売上げが伸長。このときの客がいまの顧客層になっているという。
「皆が義務で働いていたらこうはならなかった。手紙でいらしたお客さまにバイトも含め全員が『喜んでもらえる』応対をしたのが効を奏した」と永藤さん。来店客をして「私もこういう店で働きたいなあ」と言わしめるチームワークの良さ、あたたかさ。店全体に永藤さんの人柄もにじむ。
◆ながふじ・ひろし(ラーメン屋壱番亭スーパーバイザー)=昭和43年、栃木県出身。調理師学校を卒業後、ラーメン店で修業、二年後に(株)建昭商事入社。六年目に店長、二年前にスーパーバイザーとなり四店舗を任される。店長兼任の下館店(下館市二木成三条三五‐一)以外は週一日ずつ回るスケジュール。勤務時間は午前9時30分~午後6時だが規定時間で帰ることはまずない。ただ「家族といることと同じぐらい職場も楽しい」ので苦にはならないようだ。貴重な休日は三人の子供たちとキャッチボールに興じる。
◆(株)建昭商事/代表取締役社長=杉山光/創業=一九八一年/所在地=茨城県下館市下野殿八五二‐三、Tel0296・25・6787/大工だった先代が副業としてラーメン店を開業。現社長が後を継ぎ、五年前に新しく「ラーメン屋壱番亭」としてスタートさせた。店舗数は直営七、フランチャイズ七で年商一一億円。この秋には新しく焼き肉店オープンの予定。正社員二五人。