これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(27)ダイエー・中内社長
正月気分が覚めやらぬ1月下旬、突然の大ニュースが日本国中に渦巻いた。日本一のスーパー、ダイエーの創業者中内功社長の退陣のニュースである。
ダイエーを知らない国民はいない。コンビニエンスストア「ローソン」は、ダイエーの子会社。ダイエー球団だって持っている。バレーボールチームは解散したが、強かった。銀座のプランタンデパートだって、ダイエーのデパートだ。
「ビーイング」「トラバーユ」「フロム‐A」などの求人誌や住宅情報のリクルート社もダイエーグループである。そして一〇〇万部を売る雑誌、「オレンジページ」もダイエーの週刊誌だ。首都圏で最大のスーパー「マルエツ」ももち論ダイエーグループ。
こうしてダイエーグループは、トータル六兆円の売上げを誇る日本屈指の企業グループなのだ。だがそのダイエーの創業者で、最高権力者の中内オーナーが、何故退陣までしなければならないのか?
その理由は、中内社長が七六歳という高齢で、いまが引き際だったのか?
イヤ、それもあるが決定的な原因とは違う!
ダイエーがここ何年も業績不振で、今期も赤字が予想されたからか?
イヤ、それもあるが決定的な原因とは違う!
ダイエーの売上げの半分が借金、二兆五〇〇〇億円もあるからなのか?
イヤ、それもあるが決定的な原因とは違う!
では何なのか?
一言で言えば、戦後五〇年、わが国が奇跡的な成長を遂げてたどってきた道が、もうすでに崩れ去って目の前から消滅しているからなのである。先に進もうにも、もう前途に道はないのである。
来るところまで来た“豊かな社会”では、昔うまくいった商売のやり方が、今は完全に通用しないのである。中内社長の退陣は、マスコミが言うような経営内部の権力争いなどというものではない。まず、商売のやり方、方法がまるっきり変わったのだ。そこに注目しなければならない。
それには、戦後わが国がたどってきた道、われわれ日本国民が依拠してきた幸せな人生の価値観というものを考えてみなければならない。
かつては、モノがいっぱいあれば、モノが安く買えれば、モノを所有しモノに囲まれていれば、モノが腹いっぱい食べられれば、それが幸せだという価値観であった。しかし、その価値基準そのものが、もう崩壊してしまっているのだ。
あこがれの品々、あの冷蔵庫が欲しい、あのTVが欲しい、あの洗濯機が欲しい、あのステレオが欲しい、あの洋服が欲しい、あのブランド品が欲しい、あの車が欲しい、あのマンションが欲しいとまだまだ欲しいものはいっぱいあるかも知れない。
でもそのほとんどがもしなくても、それほど大きな支障はない。いま、大概の欲望は満たされている。消費者のすべてが満たされているわけではないだろうが、でもわがままを言わなければ、十分生活でき生きてゆける、そんな世の中になったのだ。
一方、モノが欲しいという消費者の欲望を満たすために、戦後全産業の工場は日夜休まず大量生産に奔走した。やがて日本のメーカーは世界一になった。その商品をスーパーが大量に仕入れ、販売し、それが流通革命といわれた。
商社ビジネスマンが世界を飛び回り、世界有数の経済大国にまでのぼりつめた。「ジャパン・アズ・ナンバー1」と、この日本国が世界中から賞賛された。その先頭を切ってきたのが、日本一のスーパー、ダイエーだったのである。
しかし、その日本の豊かさを支えてきたダイエーが、今お客さまからそっぽを向かれている。
「ダイエーになんか、良いものがないわよね!」「衣料品は、ダイエーでは絶対買わないわ!」「食品だって、種類が少ないし!」「何しろ、商品のセンスが悪いのよ!」と、ちまたのわがままなお客さまがささやいているのだ。そして、お客さまはダイエーからドンドン離れていった。
こうしてダイエーは、店数はいっぱいあるが一つも魅力のないスーパーとして、ここ数年客離れが激しく業績不振に苦しんできた。
ダイエーの不振原因の最大のものは、チェーンストア方式の店運営にある。レストランを例にとれば、チェーンストアのやり方は皆同じである。同じ形の標準店をつくり、それが日本国中にチェーンとして網の目のように店舗を張り巡らせる。
その結果、大量にお客をさばくことができる。マニュアルで、だれでも店舗運営が簡単にできるようにすれば、急速に店舗が増やせる。そのためにも、同じ仕様の店舗と同じマニュアル、同じやり方で運営するチェーンストアが一時は大流行した。そして、ハンバーグでもポテトでも大量仕入れが可能となり、メニューはどこにも負けないほど安くできる。
しかし、そんなことが実現できたか? 全く、できなかった。その前に、そんなありきたりの店にお客さまが行かなくなってしまったのだ。それは今まで散々この連載で描いてきた事実である。
スーパーもまったく同じである。ダイエーに何故お客さまは行かないか? それは、大量仕入れでどんなに商品が安くても、自分が気に入らないものなら、センスが悪ければ、色柄が良くなければ、流行の品でなければ、それは決して買われることはない。だから売れないのである。良く考えると、大したことではない。しかし、それがあの七六歳のダイエー中内社長には理解できなかったのだ。
残念である。中内氏は、素晴らしい経営者である。戦後の日本を支えてきた、この国を奇跡的によみがえらせたのは、この中内氏本人なのだ。しかしもっともっと前に、お客をモノとしか見ないチェーンストア式のロボット経営の問題点に気が付いておれば、こんな無残な結果にはなっていなかったはずだ。
チェーンストア経営の巨星、ダイエー中内社長の辞任が物語るチェーンストア式経営の破たんを目の前にして、筆者の主張が間違いではなかったことに自信を深めるとともに、日本一の流通企業ダイエーの復活の日を夢見たいものである。
(仮面ライター)