わかりやすいHACCP(4)つけない-その2

1999.04.05 175号 24面

HACCPとは簡単に言うと「つけない、増やさない、殺す」だと申し上げました。でもこれでは具体的ではありませんね。

今回はHACCPの言葉の定義を考えてみましょう。HACCPとはHazard Analysis Critical Control Pointという言葉の頭文字です。この言葉は二つにわかれています。Hazard  Analysisとは危害分析。Critical  Control  Pointとは重要点管理ということです。簡単に言うと食材を取り扱う上で、危険なことを事前に分析予測し、調理過程の重要なポイントに集中し管理するということで、その重要点管理の手法が「つけない、増やさない、殺す」ということなのです。

HACCPの考え方は、調理という作業は食中毒という危険が伴うという前提で、その危険を効率良く避けるということです。そのためにはHAつまり危害、危険を分析し、それに的確に対応するのです。

危害、危険、とはすべての食品は食中毒菌に汚染されているという認識を持つことです。第一回目で食中毒菌の種類を説明しましたが、それらを持っている食材を見てみましょう。

食肉のうち、牛はサルモネラ、病原性大腸菌、豚はサルモネラ、鳥はサルモネラ、カンピロバクターなどの食中毒菌を持っています。魚介類は、海水中に普通に存在する腸炎ビブリオに汚染されています。人間は先回もお話したように髪の毛、ふけ、傷口にブドウ球菌を持っています。

安全そうに見える野菜も、土中菌である、ボツリヌス、ウエルシュ、セレウスなどの菌を持っています。これらの菌は芽胞菌といって耐久性が強いのが特徴です。ボツリヌスは空気が嫌いですが、漬物やいずしなど、空気を遮断すると発芽し、毒物を発生し最悪の場合死亡にいたる危険なものです。ウエルシュ、セレウスは耐熱性があり、熱を加えると発芽し、増殖して食中毒を発生します。カレーライスなどの野菜料理を翌日にきちんと再加熱しないで提供すると、食中毒を起こす原因となってしまいます。

このようにすべての食材は危険な食中毒菌を持っていると思って差し支えないわけです。

そうするとずいぶん怖いと思われそうですが、食中毒菌は赤痢やコレラのような伝染病と異なり菌の力が弱く、ある程度菌が繁殖しないと食中毒症状を起こしません。つまり、食中毒菌を繁殖させないようにすればよいわけです。

たとえば病原性大腸菌、O157を考えてみましょう。O157は牛の大腸に存在するわけで、牛肉が汚染源です。でも実際の食中毒の発生を見てみると牛肉以外から発生しています。

北海道で加工されたイクラの汚染で食中毒が発生した事件がありました。本来イクラなどの海産物にはいないはずのO157がなぜいたのでしょうか。それは交差汚染です。交差汚染とは牛を汚染源とするO157の菌が人間の手か、まな板、包丁、調理機器などを経て、イクラを汚染することです。

O157は大変毒性が強く危険な菌で、指定伝染病に指定されています。米国では牛肉ハンバーガーの生焼けが原因で大規模な食中毒の発生がありましたが、それ以外に、レストランのサラダバー、リンゴジュース、飲料水、アルファルファ(モヤシ)などが原因で食中毒を発生しています。

サラダバーの場合には牛肉などを触った手、牛肉を加工した包丁、まな板などによる野菜への汚染ではないかと思われます。リンゴジュースは落下したリンゴなどを材料にするので、地面に肥料としてまいている牛ふんの汚染ではないかといわれています。水は同じく牛ふんの菌が雨水に混じって地下水に染み込んでいるのが原因でしょう。アルファルファは日本のカイワレと同じで種子が汚染されていたようです。

汚染されている牛肉もしっかり火を通して食べれば恐ろしいO157も死滅します。しかし、サラダなどの野菜、生ジュース、生水、すしねたなどは火を通すことがないので、細菌汚染があると食中毒を起こしやすいのです。特に日本の食生活は生魚や生野菜、生水を摂取する機会が多く、欧米に比べより危険だといえます。

交差汚染を防ぐには食材ごとに手、包丁、まな板、調理機器を洗浄殺菌してそれぞれの食材に固有の菌がほかの食材に移らないようにしなくてはいけません。特に火を通さない食材の取り扱いには細心の注意を払いましょう。

((有)清晃・王利彰)

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