目指すは「健康寿命」の長~い人生 優良地域「山梨県」からの報告・大研究
「健康寿命」とは何でしょう。それが長い県はどこでしょう。なかなかこの質問にすぐに答えられる人は少ない。
健康寿命とは、病気や痴呆などで要介護状態となった期間を平均寿命から差し引いた年数のこと。1999年の厚生省(現・厚生労働省)研究班の報告によると、男女平均の第1位は山梨県。バイオプログレス研究所主宰の高橋清さんに、その理由を分析してもらおう。
◆ダークホースそのワケは
一般的に「寿命が長い県」というと、沖縄県や長野県を思い浮かべますね。山梨はいかにもダークホース。山梨県では好結果の理由をその後、「健康寿命実態調査分析研究会」を編成し2004年にまとめています。
まず「健康寿命」ですが、最近はただ長生きすればよいだけでなく、健康で長生きすることが重要なことから、世界保健機構(WHO)でも国別の平均寿命と健康寿命の両方を発表しています。日本の平均寿命は82歳、健康寿命は75歳でともにトップ。
平均寿命が長い県は女性は沖縄、男性は長野ですが、確かに山梨県は平均寿命ではそれほど上位でないのに、この健康寿命については直近の統計資料で男女平均第1位(男性3位、女性1位)なのです。研究会の報告によると、特筆すべきものとして「社会的ネットワーク」と「食生活」を挙げています。
◆社会的ネットワークってなんだ
社会的ネットワークは、社会とのかかわりや人間関係を示し、これによって健康に関する情報を早く入手できたり、お互いの健康状態を把握できたり、困ったときなどの支援を受けやすいなど、健康に寄与します。山梨県には、いまも盛んに行われる人付き合いの形、「無尽」があるんですね。もともとはいわゆる頼母子講(たのもしこう)や互助会のような金融の一形態で、全国にあったもの。複数の人たちが講(グループ)を作り、一定額の掛金を定期的に集金して、入札や抽選によって融資を受ける仕組みで、現在の第二地銀の多くは地域の無尽を出発点にしているものが多いといいます。消費者金融のCMのキャラクター「むじんくん」も「無人」だけでなく、「無尽」の意味もあるそうなんです。
その「無尽」が山梨ではまだ見事に残っていて、メンバーが毎月お金を出し合い、ゴルフ無尽や旅行無尽など、積み立てられた金で宴会や旅行を催すものが多い。近所付き合いもあって、1人で複数の無尽に加入していることも多く、地域の重要なコミュニケーションの場になっているらしいのです。
山梨の高齢者の中で、「無尽」の集まりを楽しみにしている人や、複数の「無尽」に入っている人ほど、健康状態がよいというのです。
◆究極のスローフード、それは
そして次に食生活。「無尽」などの寄り合いの時によく登場するのが山梨名物「ほうとう」。煮込みうどんのようなもので、平打ち麺を湯がくことなく、カボチャなどのたくさんの野菜と一緒に生麺の状態から煮込むところが特色。作るのが簡単で、大人数で食べるのに都合がよく、皆で食べるからよりおいしい。うどんは製麺時に塩を入れるが、ほうとうは入れない。もともと味噌やダシで煮込むことを想定しているので、塩を入れる必要がなく、そのためコシは弱いが食感はモチッとしています。
調査ではほうとうを食べる回数が多い人ほど、血液検査のデータがよいとしており、これは健康寿命を延ばすために欠かせない典型的な「スローフード」の文化と位置づけています。
無尽の場で楽しくほうとう。山梨県人でなくとも、その地域なりの無尽とほうとう、長い人生の途中で見つけていきたいものですね。