アンデスの炎 甦ったインカの神秘・アマランス アトピーの代替品としても注目
アマランスの原産地は中南米。古代アンデスの遺跡から出土しており、紀元前四○○○年以前から食べられていたといわれる。当時の王たちは不老長寿を得るためにこれを年貢として納めさせた。またインカ帝国では神事の供えものとして重要な穀物であった。
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いまを去る五○○年前、コロンブスは新大陸を発見した際に、タバコ・ジャガイモ・トマトなど農作物を旧大陸に持ち返った。ところが、そこにはなぜか、この地域で最も貴重とされていたアマランスの姿はなかった。インカ帝国を征服したスペイン人は、アマランスの高い栄養価と、これを摂取することによって士気を高揚する力のあることに脅威を感じ、“邪教の食べ物”として持ち返ることはもちろん、インディオが栽培することも極刑を科して禁じたのだ。
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それから長い間忘れ去られた存在となったが、一九七五年にアメリカの国立科学アカデミーによって「世界の有望な作物」の一つに採択、その価値が注目を浴びた。
平成11年には「五訂日本食品標準成分表」にも登場する。時空を超えて、インカの神秘はいまこの日本にも根づきはじめている。
アンデスの山あいに住むインディオたちは、いまもインカ時代と変わらぬ暮らしを営む。彼らはアマランスの種子を煎ってポップコーンのようにふくらませ、それをシロップで練り“おこし”のような菓子を作る。粉にひいて小さなパンにしたり、飲料も作る。
驚くべきことに、南米から遠く離れたネパールやインドにおいても、これに似たアマランスの利用法がみられる。ヒンズー教の特別なお祭りの日には、ほかの食物が食べられず、アマランスをポップした種子をミルクと混ぜて食べる。コメと一緒に食べたりもする。
新大陸起源のアマランスが、どうしてヒマラヤ山麓などに広く分布し、その地域の農耕文化の中に組み込まれるようになったのか…。アマランスは、未解明の歴史の鍵を握っている。
●取材協力=ペルー大使館、日本アマランス研究会
食物アレルギーの代替穀類として注目されるアマランスの種子。高タンパクで、他の穀類に少ない必須アミノ酸・リジンを豊富に含む。玄米の約一五倍のカルシウム、六倍の鉄分、二・五倍の食物繊維があり、コレステロールや血糖値の低下効果も期待されている。
これぞ“アマラン酢”!他にも“せんべい”など加工品はいろいろあり、岩手県のうどん店では“アマランス麺”が人気ニューだとか。中国では酒やしょう油(種皮の色を利用)、蜂蜜(花)もつくられている。