百歳への招待「長寿の源」食材を追う:ひじき

1996.02.10 5号 6面

長寿化につれて確実に増えている病気の一つに骨粗鬆症がある。日本の患者数は一〇〇〇万人ともいわれ、とくに女性に多い。骨量が極端に減ることで、骨折になりやすく、痛みもみられる。寝たきり老人では一〇万人を超すとみられる。最大の理由はカルシウム不足で、欠食やアルコール、煙草、加工食品のとりすぎもあげられるが、適度の運動と日光浴が大切とされている。日光浴によるビタミンDの供給はカルシウム吸収を高めるポイントなのである。

今回は、このカルシウムが容易に摂れる海草類を二つ紹介する。

(食品評論家・太木光一)

ひじきは乾物として乾物店のみにあり、回転もよくないのでつねに埃をかぶっていた商材である。安いことから貧しさが連想され、若い人や都会人には軽視されてきた。

ところが海藻健康法のブームで見直されて需要は急増。加えておふくろの味に人気がわいて、惣菜店でひじきの炒め煮は売れ筋ベスト5に入るほどと様相が変わった。

ロンドンの有名百貨店でもひじきが陳列され、解説にシーウイード(sea weed)=海の雑草となっていたが、いつしかシーベジェタブル=海の野菜と昇格しているのをみた。日英ともに居どころを変えて出世したといえよう。

ひじきは日本の太平洋岸、瀬戸内海、東アジアなどに広く分布しているホンダワラ科の海藻。糸状の根をはって茎は直立し長さは数十センチ、時には一メートルぐらいに達する。

円柱状の肉質の小枝をつけ、短いものはナス状で気胞を備えている。暖地のものは葉が残るが、北方のものは早落性。

かつてはどこでもとれたが、海岸が汚染され生産量は急減し、現在では韓国などからの輸入によって、ようやく需要を満たしている。種類は柔らかく細かい芽ひじきと、太くて歯応えのある長ひじきなどさまざま。黒くてツヤのあるのが良品で、パリパリとよく乾燥したもの、色にムラのないものを選ぶこと。

現在の日本人の食生活は豊かで栄養過剰といわれる中で唯一不足しているのがカルシウムである。カルシウムはもともと体内で吸収されにくい上に、豊富に含まれている食品が限られる。また、その吸収を妨ぐ成分のリンを含む食品も多くとることも原因だ。

この点からみてひじきは理想食で、カルシウムは一〇〇グラム当たり一四〇〇ミリグラムもあり、わかめやこんぶよりも多い。しかも鉄分も多く一〇〇グラム中五五ミリグラムもあって、まさに王者級。またヨードも多くみられる。

ひじきはカルシウム・ヨード・鉄・マグネシウム・亜鉛などの無機質に富むので常用すると血管硬化を防ぎ、歯を丈夫にし、髪のツヤを良くするとあってファンは増加中。しかも繊維が非常に多く、一面消化の悪いことも意味するが、他面ファイバーフードとして整腸作用に効果絶大。このため美容食視されている。しかも海藻類はわかめを始めひじき、こんぶなどもすべてカロリーゼロである。

ひじきは水にもどすと重量が五~六倍にもふくれあがるので分類を控え目に用意すること。よくふやけたら一たん打ちあげ、別に塩、みりん、酒、醤油などで調味した煮出し汁をつくり、油揚げ、大豆、なまり節などを好みによって入れ、トロ火で気長く煮つけるのがコツ。組織が柔らかいので煮汁がしみ込みやすく調味しやすい。油で炒めて調理すると口当りもよくカルシウムの溶出を防げる。

海藻類の愛用は長寿しかもストレスを解消し老化も防ぐ、一石数鳥の食品なのである。

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