トップインタビュー デリシー産業・松波重久会長 「俵屋」チェーン15店に拡大
‐‐松波会長は一〇年前に家電業界のトップからラーメン業界に転業、異業種参入の典型的パターンとしてラーメンレストランチェーン「俵屋」を一五店舗まで拡大してきましたが、そもそもの動機は何だったのでしょうか。
松波 私は二一歳で会社を興し、六〇歳まで四〇年間家電業界におりました。当時はちょうど家電業界も再編成時代を迎え、合併して大型化し生存を図るという時代に突入していました。六〇歳を機に引退して休業したのですが、体は元気。何かしよう、それなら荒利が高く、効率の良い飲食にしようと休業一年でラーメン店を始めました。家電の荒利約二〇%に比べて飲食は六〇~七〇%ですから、コストや経費をコントロールすれば経営上の妙味がやり方によってはあるところに魅力を感じたんです。電機は売上高も大きいですが、設備も膨大。経営は売上高より純利益にいくら残るかが問題で、利益大なることをもって良しとしますからね。
‐‐飲食の中でも中華のラーメンを選ばれたのはなぜですか。
松波 単純商品なのでチェーン化に向くことと、商品の知名度が高くニーズが高いからです。消費頻度の少ない贅沢なものより頻度が多く高い技術のいらないものというと麺類になるんです。この業界は全くの素人なのでスタッフは友人・知人の紹介で集めました。技術的側面から現在俵屋には中国から七人の技術者も招へいしています。
‐‐ラーメンチェーンとしては後発になりますが、先発と差別化を図るためにどんな工夫をされましたか。
松波 まず清潔な店舗であること。私もラーメンは良く食べますが、当時私がラーメン屋に一番に望んでいたことです。そこで一号店は和風で明るく清潔なイメージの店を出しました。今では皆さんきれいになっているのでこの一〇年でラーメン業界のグレードはとても高くなったと思います。
もう一つには、私自身長年家電業界でチェーン化を研究してきています。チェーン展開の権化であるアメリカの勉強もしてきている。そういう中で飲食のチェーン展開はこうあるべきだという自分自身の中にあるものを実現しています。
‐‐具体的にはどういうことですか。
松波 誰にも見える透明な経営「ガラス箱経営」です。わが社はいいことも悪いことも店長以上にはすべて内容が見えるようにしています。税務署への対応もさることながら、従業員のモラル、信頼獲得が第一です。
「従業員には仕事の前に心を作ってもらう」を基本にしていまして、経営者ともどもモラルを育てていこうということです。ですから利益が出た時には従業員に還元します。勤労意欲を失った社員を持つ企業は滅びます。
ガラス箱は同業他社に向けても同じです。中華料理に携わる一五~一六人で「五色経営研究会」を作って社長同士の情報交換をしています。五色というのは経営のチェックポイントで「味、清潔、売価、スピーディ、サービス」。これに肉づけすれば経営は成るという基本です。社長業はリスクは最高に背負っていますが最も情報が足りない、孤独な職業なんです。私も含めて経営者の孤独な面を解消しないと真の発展に結びつかない。皆さん相談ごとを聞いてくれる相手がいらっしゃらないんです。そこで、社長同士が仲良く友達になって真の情報を持ち寄り、判断し合える仲間づくりをしているわけです。
会のメンバーには当社で月一回開く支店長会議に参加される方もいらっしゃいます。そこでは通常でしたら社外秘とされるメニュー戦略や経営戦略、経営状態などが語られるわけですが、わが社の戦略が他社さんの参考になり、ひいてはお客さんのために良い方向に動くのであれば私の望むところですので、自由に参加していただいています。もちろんわが社の戦略を活用したからロイヤリティーを求めることはいたしません。
‐‐徹底した「ガラス箱」ですが、なぜそのようなお考えになったのですか。
松波 二一歳から会社を作り、貧乏から始めて今日までお客様のおかげでお金を蓄積させてもらいました。同業者同士、これはという妙案があったら提供し合ってお互いに意見交換してさらに良い案にすると当事者もお客様も得をする。社会的使命を感じながら企業経営をしていきたいということです。
‐‐今後の俵屋チェーンについてお聞かせ下さい。
松波 まずは三五店舗体制にして地を固めてから長期的には一〇〇店に持っていきたい。現在は全て店舗で手作りしていますが、将来的にはセントラルキッチン(CK)の弊害を除去し、あくまで技術者のいるCKを作りたいと思っています。当社では情報は常にオープンが原則なので、ひとりよがりの職人より皆で評価できる技術者の育成に注力しています。
最近の人気メニューに薬膳を取り入れた「ぎょうざ鍋」(九五〇円)というのがあります。体に良い薬膳を俵屋に取り入れられないかと検討しメニューにあるぎょうざをメーンに開発した商品です。クコの実やナツメなど一〇種の漢方薬を使用した特製スープを使っています。漢方はそう高価なものではないので、使い方の技術を習得すれば、値ごろ感あるメニューで付加価値をつけて出せます。2月からラーメンでも試験導入を始めました。
今後もラーメン各社のFCは増えると思うので、旧来の因習を破れない店は撤退していかざるをえないと思います。日々、お客様のために前進していきます。
‐‐ありがとうございました。
大正14年、東京生まれ。昭和21年に松波商会を興こして以来、同60年ラオックス(株)代表取締役を退任するまで家電業界を牽引してきた。飲食に関しては自ら「お客様の代表」「自分の店でも自分のお金で食べるので文句が言える」と飲食業のノウハウはそれぞれのスタッフに任せ、自らの理想とする経営の舵取りに専念する。経営者としての長い経験から経営に行きづまった時の飛び込み寺として氏を訪ね「もう一度やってみます」と元気を取りもどす人もしばしば。異業種参入ということもあり、飲食を客観的に捉える洞察眼と因習にとらわれない斬新な飲食店経営で同志を増やしながらラーメンのグレードアップに力を注ぐ。最近、古稀の祝いとして胸像を贈られたとはにかむ。
(文責・福島)














