飲食店成功の知恵(63)開店編 お値打ち感とは

1995.04.03 73号 20面

お値打ち感とはいろいろな意味での付加価値であり、お客にとってその価値の高低は売価で決まる。支払った金額の割には満足感が強い時、お客はお値打ち感が高い、と感じるのである。

では、その満足感は何を基準に判断されるのか。いうまでもなく、商品、サービス、雰囲気の総合的付加価値が前提になるのだが、その中でもやはり優先順位はある。飲食店である以上、商品=料理に対する満足感は、サービス、雰囲気よりも重視されるのだ。いくら内装におカネをかけて質の高いサービスを提供しても、肝心の料理がまずくては、お客は決して満足しない。それどころか、内装やサービスでダマされたと感じることだろう。

しかしだからといって、料理さえおいしければいいということにはならない。食事をすることの楽しさを提供していないからである。いまのお客はたんに空腹を満たすためにだけ飲食店を利用するのではない。食事と一緒に豊かな気分を味わいたいと思っている。サービスや雰囲気が大切なのはそのためだ。

また、お値打ち感は売価で決まるといったが、それは単純に金額として安ければいいということではない。単純比較では他のお店よりも売価が高くても、満足感が高ければお客は「トクをした」と感じる。これをリーズナブルプライスというが、このことを誤解している人が非常に多い。

リーズナブルプライスとは、たんに安いという意味ではない。料金を支払う対価として十分に納得できる価値のある価格のことなのである。そして、このプライスラインはお客の利用動機によって変わる。日常食と特別の日のごちそうとでは予算が違うのは当然のことだ。だから、同じ人でも、六〇〇円も二〇〇〇円も、場合によっては一万円以上でもリーズナブルと感じるのである。

このように、飲食の金銭感覚とは一概には割り切れないものなのだ。だから、メニュー価格といっても、商品だけを切り離して考えることはできない。

そこで大事になるのが、原価率の考え方である。

たしかに「安くてうまい」は飲食業のキーワードである。しかし、単純に売価を抑えて原価率を上げたら、経営は成り立たない。お客が「安い」と感じて、なおかつお店が適正な儲けを手にして、はじめてリーズナブルプライスと呼べるのだ。ところが、商品のお値打ち感にこだわるあまり、材料原価を過剰にかけてしまうケースが後を絶たない。

材料は料理の基本である。しかし、値段の高い材料を使えば絶対においしくなるというものではない。原価をかけなくても、味つけとか調理の工夫、盛りつけの演出などで、お客の支持は十分に得ることができるのだ。せっかくいい材料を使っても調理技術や演出力が低いために、材料の価値がお客に理解されないのでは何にもならないのである。もちろん適正原価の下限は守らなければならないが、原価以上の付加価値をつけて提供するのが飲食店の本来の仕事である。ふつうの豚肉を使っても、油やパン粉などにこだわり上手に揚げれば、うまいとんかつになる。が、上質の肉でも揚げ切りが悪くてはどうにもならない。どちらのとんかつをお客が支持するか、一目瞭然だろう。

また、一人前の量についてもひと言付け加えておきたい。一般に量が多ければお値打ち感が高いと思われているようだが、それは一概にはいえないし、お店の側のひとりよがりであることも少なくない。一人前の適正な量と値付けは、客層や来店動機、メニュー構成などによってかなり違ってくる。固定して考えるのは危険である。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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