小売業の使命に限界 山形・大沼破綻に見る地方百貨店

ニュース 小売 2020.02.05 12009号 01面
中心商店街で使命を終えた大沼

中心商店街で使命を終えた大沼

【東北】山形市の百貨店大沼の経営破綻が全国で報じられ、地方百貨店の置かれている環境の厳しさがあらためて認識させられている。東北では2017年2月に仙台駅前のさくら野百貨店が閉鎖され、複雑に入り組む地権者の問題もあって、所々ひびが入った建物は今でも仙台の一等地にさらされたままだ。大沼破綻の経緯をかいつまんで見てみる。創業だけを見れば、全国の百貨店では3番目に古い元禄13年だが、業態としての始まりは1950年。地元、全国大手小売業との競争を繰り広げてきた。しかし、買い物客が郊外の大型店に移り、中心市街地の衰退という商業環境の変化に対応しきれなかった地方百貨店の体質が表れている。(三沢篤)

●環境変化対応、後手踏む

17年に投資ファンドMTMが支援を決定、ところが出資金を自らに環流させていた問題が発覚し、紆余(うよ)曲折があって昨年3月には大沼幹部社員による投資組合が設立されて再建の道を歩もうとした。“脱百貨店”を標榜(ひょうぼう)するなど模索するもののとき既に遅く、昨年の消費増税が追い打ちをかけた。1月26日事業を停止した。

ぐらつき始めてから今日まで混乱する経営と生き残りだが、極論を言えば小売業としての使命を終えていたといえるのではなかろうか。山形駅前は2000年に山形ビブレが閉店、05年ダイエーがヤマザワに、18年には十字屋が閉店し、地盤沈下が進み、このたびの大沼の破綻に地元関係者には危機感より諦念(ていねん)が漂う。

地方都市商店街の疲弊は、人口減と高齢化によって年々進んでいる。中小零細の商店はもとより、中小SMも足元が揺さぶられている。思い出されたのは、同じ山形市に本部を置くヤマザワ創業者の山澤進氏の回顧「ヤマザワ20年の歩み」の一節である。1962年11月、山形駅前に県内初のSMヤマザワ駅前店が開店する。オープンチラシ5万枚で“デパートよサヨウナラ、お買物はスーパーで”とうたったため物議を醸した。スーパー黎明期に各地で使われたコピーである。

山澤氏は市内にある百貨店社長から呼び出され語気を強め叱咤(しった)されたという。「釈明したが、地域性のようなものを強く感じた。駅前店が山形市民の人気と話題を呼んでいたか知らないままのお叱りではなかったか」と記してある。半世紀以上を経てそのSMもまた百貨店同様にネットやDS、DgSに揺さぶられ、グループ参加、M&Aなどでの生き残りが話題になってきている。

大沼が破綻し市内中心部七日町の空洞化が一層進むとみられる。ただ、消費生活にそれほど不自由することはない。百貨店の存在はますます薄れてきていて、東北の県庁所在地に出店する各百貨店も大沼に似た問題を抱え、厳しい時代を迎えている。

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