新型コロナ:タイ飲食店にも影響 客足途絶え戦々恐々 コメ価格上昇が追い打ち

総合 ニュース 2020.03.11 12024号 02面
タイ紙最大手「タイ・ラット」の電子版トップページ。関心の高さがよく分かる

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感染予防のイラストを店内に掲示する店も出始めた=バンコクの沖縄料理店「金城」提供

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世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスが、食文化豊かな東南アジアのタイの市場にも影響を与えている。レストランなどの飲食店では客足がばったり途絶え、スーパーなどの小売店でもマスク姿の買い物客が早足で買い物を終えていく。少しでも感染のリスクを減らそうと、外出を極力控えデリバリー業者に食材や食品の配達を依頼する動きも広がっている。出口の見えない脅威に、市場そのものが戦々恐々としている。

飲食店や雑貨店などが入居するバンコクの商業施設MBK。ここでは今、入居するテナントのオーナーたちが施設の運営会社とテナント料の減免や徴収猶予をめぐって、連日の交渉を続けている。新型コロナウイルスの感染が始まった1月下旬以降、客足はみるみる遠のき、1日の売上げが500バーツ(約1700円)に満たない店も。体力のない店は早々に撤退し、残った店も次回更新を乗り超えられるか心もとない。運営会社も食い止めに必死だ。

「普段の3倍は仕事があるね」と話すのは大手アプリLINEが手掛ける配送サービスのタイ人運転手。ピザや弁当、野菜、肉、マスクなどの宅配依頼が殺到しているといい、食事の時間を削ってバイクでの配送に向かう。給与は歩合制で、仕事が多ければ多いほど手元に残る。「患者には気の毒だけど、俺たちには特需だね」

一方、街のコンビニエンスストアや食品スーパーなどでは何とか客を引き留めようと、あの手この手のプロモーションを実施するなど必死だ。

衛生管理が行き届いていることをアピールするための消毒用ジェルの設置やマスクの着用なども徹底している。閉鎖空間が良くないとニュースで流れれば、扉や窓を全開にして営業する店もあるほどだ。

こうした事態に追い打ちを掛けるように広がっているのが、東南アジアの人々の主食であるコメの価格上昇だ。ウイルスの感染拡大を予想して世界各地の業者や消費者が買い占めていることに加え、感染源の中国では政府が輸出を停止。一気に供給バランスが崩れた。タイ産白米の価格は1月上旬時に比べ1割程度も上昇している。

コメだけではない。タイの主力産業であるサトウキビの栽培も昨年後半以降、産地が深刻な干ばつに見舞われていることから不作となり、供給減と価格上昇は避けられない見通しだ。サトウキビの不作は新型コロナウイルスとは直接は関係ないが、市場の縮小と硬直化にあって影響は例年の不作時を大きく上回っている。

現地銀行大手カシコン系のシンクタンクによると、タイの外食市場は約4000億バーツ。食品に雑貨など生活必需品も含めた全小売市場は4兆バーツ弱と見込まれている。ここに今、大きな変化が生じようとしている。デリバリーなど一部に特需はあったとしても、全体としては市場の急激な縮小は否めない。

業界団体によると、このまま感染の脅威が東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会直前まで続くと、タイの経済成長率は限りなくゼロ成長に落ち込むとの試算もある。事態は待ったなしの状況だ。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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