飲食店成功の知恵(65)開店編 サービスで差別化する
飲食業はサービス業、ということは誰でも知っている。ところが、どういうサービスをすべきなのかとなると、どうも心もとないお店が多い。これからお店をオープンする人にはぜひとも、サービス業のサービスについて、きちんと理解しておいてほしいと思う。
飲食店が最も気をつけなければいけないのは、サービスの形骸化である。形だけのサービスには、人間味のある温かな「心」がない。そんなサービスはお客にとって、無用の長物でしかない。一応「いらっしゃいませ」というが、明らかにただそういわなければいけないからいっている、という態度。無表情ならまだしも、ちょっとお客が迷おうとでもするならイライラした顔と声になるオーダー取り。そういうお店では料理の運び方もぞんざいだし、料理を出すのが遅くなっても、「お待たせしました」といえばそれで済む、という姿勢がミエミエだ。なかにはそれすら言わないお店もある。そして、驚くなかれ、お客が帰る際に「ありがとうございました」と言い忘れる(!)お店すら珍しくない。
こんなサービスがお客にとって邪魔なものでしかないことはいうまでもないだろう。最悪なのは、ひと目で「客あしらい」としてしか考えていないことが分かってしまうお店である。こういうお店はお客を「さばく」ものと心得ているから、席へのお客の誘導はうまい。お客の意向などハナから無視して、強引に席を詰めさせたりして得意になっている。
どうしてこういうことになるのかというとお店におもてなしの「心」がないからである。言いかえれば、お客に対する「愛」がない。本当にお客を愛していれば、お客が何を望んでいるのか、どうすればお客は喜んでくれるのかを第一に考え、それを最優先させるはずである。お店が混んでいたりして十分に尽くせない時があっても、お客はそういうお店の姿勢を敏感に感じ取る。だから、少々のミスがあったとしても許してくれる。固定客ではないのに、お客は心を開いてくれる。お店とは本来、そういう心と心のふれ合いの場であって、たんなるモノとおカネのやりとりの場ではないのだ。それがサービス業である。
サービス業のサービスとは、お客の希望に最大限こたえるように努力することが原点である。だから、サービスが付加価値として認められているのだし、お客も価値の高いサービスを望んでいる。つまり、どんなサービスをするか、その努力はそのまま他店との差別化を実現することになる。ところが、最初に書いたようにサービスの本質を見失っているお店が多い。そのため「本当にお客に喜ばれるサービス」に真剣に取り組むことは、絶好の差別化の武器になっている。もちろん、商品や雰囲気での差別化も等しく重要なテーマだが、サービスのいいところは基本的におカネがかからないという点だ。人数を増やせば人件費がかかるが、質の高いサービスは適正人数で十分にできる。
サービスというのは、する側の考え方ひとつでどうにでも変わるものだ。そこに、この仕事の奥深さがあるわけだが、同時に、大きな落とし穴でもあるのだ。たとえば、接客の最後がレジだと思えばレジ前で終わり、ドアの外までと考えているお店は、お店の前まで出てあらためてお礼をいい、お見送りする。あなたがお客だったら、この違いをどう感じるだろうか。
また、サービスとはたんなるテクニックではない。はじめて飲食店をやる人が勘違いしやすいのは、お客に対しての礼儀のあり方だが、カタチにこだわるあまり、肝心の「心」がお留守になってしまいがちだ。しかし、大切なのはもてなそうという「心」である。そのあなたらしい表現を大事にしてほしい。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行