外食の潮流を読む(65)寿司酒場「杉玉」に学ぶ“直球+変化球”で強くなる

2020.11.02 501号 10面

 本連載の第61回で、SFPホールディングスの新業態「町鮨とろたく」について書いた。大衆居酒屋と寿司店が合体した店で、メニュー設計やサービス形態が大変よく考えられていた。この業態名を「寿司酒場」としておこう。今回はそれと並ぶ新業態「鮨・酒・肴 杉玉」(以下、杉玉)のことを紹介する。

 「杉玉」の運営会社は、スシロークリエイティブダイニングで、同社は回転寿司業界トップの「スシロー」(556店舗/2020年8月末現在)を展開する、あきんどスシローのグループ会社である。「杉玉」1号店は、17年8月にオープンした西宮北口の店舗(兵庫県)で、今年9月末段階で23店舗(関東14店舗、関西9店舗、うちFC2店舗)となっている。

 「杉玉」の特徴は、メニューのほとんどが「299円」であること。これは低価格均一居酒屋のイメージだが、回転寿司を主力とする企業の文化なのだろう。大衆居酒屋定番のおつまみを30品程度、シュウマイ、天ぷらもある。寿司は「極み寿司」と「王道寿司」と2つのカテゴリーが設けられている。酢飯の酢はバルサミコと黒酢を合わせている。筆者は、あえて2つ設けられた寿司のカテゴリーのつくり方に特に注目している。

 極み寿司は「雲丹といくらのこぼれ軍艦」(一日限定10食)のほか、高級ネタを使用した1貫提供の「赤海老 他人の子持ち」「キャビア寿司」「ホタテの雲丹炙り」など7品目、2貫提供の「飲めるサーモン」「えんがわの昆布〆炙り」など4品目をラインアップ。王道寿司は一般的な寿司店のメニューで構成され、「欲張り三貫」として5品目、「王道三貫」17品目、「厳選二貫」7品目、「特選一貫」5品目、「中太巻き寿司」5品目となっている。特選一貫は、生うに、穴子一本、あわび、本鮪大とろ、本鮪大とろ炙りとなっている。

 「杉玉」の開発には、スシローの人材だけではなく協力会社が存在しているという。この2カテゴリーは、王道寿司がスシロー本来の“直球”であり、極み寿司は遊び心を持つ協力会社の“変化球”である。この2つの球種を交えることでお客が店に抱く期待感は大きく高まる。率直に述べると、「杉玉」から極み寿司を外すと、新味を欠いた普通の「寿司酒場」のままである。

 筆者は8月28日にオープンして間もない鶴ヶ峰店(横浜市旭区)を19時ごろに訪ねた。住宅街立地である。店頭は人だかりのウエーティングであったが、10分ほどで5組が入店した。この時間で店が1回転しているということだ。50席ほどの店内は満席で、老若男女さまざまな客層が食事を楽しんでいた。1980年ごろの郊外のファミリーレストランのにぎわいを思い出した。

 客単価は3000円弱と見た。これは大衆居酒屋チェーンと同レベルだが、「杉玉」の業態価値は数段高いといえるだろう。“直球”プラス“変化球”は、外食の経験値が高くなった消費者と向き合う上で重要なキーワードだと感じた。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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