飲食店成功の知恵(76)繁盛編 値上げのテクニック

1995.10.16 87号 19面

いうまでもなく、利益と売り値とは密接な関係にある。同じ原価でも、売り値が違えば利益もまた違ってくる。逆にいえば、利益はつねに、原価の変動に左右されることになる。そして、ふつう材料の価格が一定ということはあり得ないし、あらゆる経費は年々高くなっていくから、売り値を据え置くことはそのまま、利益の減少の大きな要因になってしまう。客数の増加=売上高の増大や新メニューの開発などでカバーしていくわけだが、それとてもやはり限度はある。どんなに努力しても人件費を払えなくなれば、値上げするしかない。

しかし現実には、メニュー価格というのはいったんメニュー表に表示した以上は、そう簡単には値上げできない。お店の側ではやむを得ずの値上げでも、お客はそうは受け取ってくれないからだ。もちろん、お客にも、材料費や人件費、家賃、水道光熱費といった諸々の経費が年々上昇していることくらい、分かっている。ところが、自分の給料は上げてほしいが、自分で支払うお金についてはシビアというのが、お客の心理なのだ。この心理は、立場を変えればあなたにも当てはまるのではないだろうか。

つまり、値上げとはお客との心理戦なのである。サービス業である飲食業は、すべての面でお客との心理戦に勝つことが繁盛店への条件のわけだが、値上げは明らかなお客の抵抗が予測されるだけに、もっとも神経を使わなければならない心理戦だといえよう。

よく全商品について五〇円ずつなどを、一律に値上げするお店があるが、これはその意味で最悪のやり方である。品目によって値上げ幅を五〇円、一〇〇円などと差をつける例もあるが、そういうのはたんなる小手先のごまかしでしかない。お客の目から見れば大差はないどころか、かえって悪印象を植え付けかねない。

では、お客の反発をあまり受けないように値上げをするには、どうしたらいいか。いちばんのポイントは、お客に「これくらいは仕方ないだろう」と思ってもらうことである。それには、値上げする品目を最小限にとどめることも絶対条件。どの商品を値上げするかは、ABC分析の手法で決定すればいい。

ABC分析とは、たくさんの管理対象物の中から重点的に管理すべきものを探し出す計数手法で、対象をA、B、Cの三つのランクに分けて検討することから、こう呼ばれている。レストランのメニュー分析の場合では、

(1)出食数ABC分析

(2)売上高ABC分析

(3)粗利益高ABC分析

の三つがあるが、値上げする品目を決めるには、商品ごとの人気、不人気の度合いを調べる(1)出食数=消費者支持度別ABC分析で十分である。

分析手法は簡単だ。メニュー品目別に売れ行き個数を集計し、売れ行き個数の多い順に並べてみる。そして、その個数の累計構成比が上位から七五%までの商品をAランク、九五%までをBランク、それ以下残り一〇〇%までをCランクとする。これだけだ。

ふつう、Aランクに入るのは全商品の一〇~二〇%程度だが、値上げするのはこのAランク商品だけで十分である。かりにAランクの商品が三、四品しかなくても、全出食数の七五%を占めているのだから、実質的には全商品の値上げに匹敵する効果が得られるからだ。そして、お客にとってはごく一部の商品のみの値上げとしか映らないから、値上げという印象は薄く、抵抗感も小さいというわけだ。このへんが、お客との心理的なかけひきなのである。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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