地域ルポ JR王子駅(東京・北区) 南北線開通で客流出の危機

1996.05.06 100号 8面

東京・北区王子。明治時代からの殖産興業の拠点で、大蔵省印刷局王子工場をはじめ、王子製紙十条工場、板橋火薬製造王子工場、日本フェルト、関東酸曹、東京第一陸軍造兵敞など多くの工場が集積し、日本近代化の幕開けを担った。このため、職工、労働者の街として栄えた。また、ここは江戸時代から桜の名所として知られた飛鳥山があり、レジャー客が多く来街した町でもある。しかし、地域の住宅化と産業構造の変化とともに工場がなくなり、今では大蔵省の印刷工場や民間企業の工場がわずかに存在するだけだ。昔に比べ活気が乏しくなったと古くからの町の人はいう。大田区や江東区の工場街と同じような状況にあるわけだが、ここには沿線の赤羽や川口のように、百貨店やスーパーなど大型の商業施設がない。街に活力が出てこない大きな理由だ。

王子は交通の便には恵まれている。JR京浜東北、都電、営団地下鉄南北線と三線が走る。それだけに街に魅力がないと、地域外に人が流れるということにもなる。

大型商業施設を多く集積する赤羽は京浜東北で二つ目の駅だ。JR王子の一日当たりの乗降者数は一三万人だが、この数字は減少傾向にあるという。(JR王子駅)。

人口が流出しているということにもなるわけだが、しかし、街に活気が乏しくても飲食店舗は新旧、大手チェーン店も多く存在する。

JR王子駅の中央口(都電口)を出れば即右手にサンスクエアがある。昭和54年、日本製紙が工場をスクラップし再開発したもので、広場にはマクドナルド、クレープハウス・ユニが出店しており、地域の顔としての賑わいをみせている。

サンスクエアビル一、二階にはコックドールが中国料理と洋食レストランの二店を出店しており、マクドナルド、ユニとともに飲食スポットとしての補完機能を果たしている。

小さな道を挟んでサンスクエアの北隣り。木造低層の「柳小路商店街」が並ぶ。公道、私有路合わせて約七〇〇坪の広さ。

戦後の闇市時代からの商店街で、当時は飲食、風俗を主体に二〇〇軒が存在した。現在では都の区画整理事業や店の老朽化、経営者の高齢化と後継者の問題もあって、現在は五〇軒に激減している。

このうち飲食店は居酒屋、小料理、スナックなど三〇軒。昔の懐しい雰囲気を残しているので、映画のロケやカラオケのバックイメージの撮影によく使われるという(居酒屋店主)。

バブル時代は行政指導もあって再開発の計画も検討されたが、現在は立ち消えの状況だ。

柳小路の前面は明治通りで、この両サイドにはビルインの出店形態で、ミスタードーナツ、珈琲館、吉野家、王将といった大手チェーンが展開する。

しかし、昼、夕方の特定の時間帯を除けば客足は悪く、集客数は不十分という状況だ。

「以前は女高生など若い人がよくきてくれていたんですが、南北線の開業で少なくなりました。人の流れが大きく変わったという印象です。ですから、営業目標もアンダー気味で、客数をどう引き上げていくかが大きな課題です」(ミスタードーナツ店長)。

営団地下鉄南北線は3月26日に駒込‐四谷間が延伸開業した。交通の利便性が高まった分、来街の促進ではなく、人が地域外へ逆流しているということのようだ。

王子駅の北口(バスターミナル口)。駅改札口ともに新幹線開業時に整備されて都会的な雰囲気に変わった。新幹線の高架に沿って赤羽方向に歩く。

カラー舗装された全長一〇〇mほどの“飲食店街”になっている。

平成2年9月に完成した北区の複合都市施設「北(ほく)とぴあ」(地下三階、地上一八階建て)に通じる駅からのアクセスストリートなので、通称“北とぴあ通り”ということだが、高架下店舗としてコージコーナー(洋菓子、喫茶、軽食)、キングストンクラブ(軽食、カクテルバー)、そふりっと(イタリア料理)、桃花園(中華料理)、喜多楽(回転すし)、CHOTO NAIL(洋食・カレー)など六店が軒を並べている。

地域のしゃれた飲食スポットということだが、トータルでみれば、やはり人通りは少ないという印象が強い。

このほか、地域にはビルイン店舗としてジョン万次郎、魚民などの居酒屋チェーンも存在するが、集客力はもう一つだ。

王子駅前を南北に走る北本通り。左の高層ビルは北とぴあ‐‐キリンシティ、カフェセボール、しゃぶしゃぶ山海亭などが出店

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