2024年食のトレンドを振り返る
2024年は、例年とはかなり異なる傾向だったと感じる。
「マリトッツォ」や「タピオカミルクティー」、さかのぼればパンケーキにティラミス、台湾カステラなどこれまではその年ごとにブームになったスイーツがあった。甘いものに期待し喜々として店の前に行列を作る女性たちの様子が何度もメディアで流された。
2024年にヒットした食でまず思い浮かぶのは「おにぎり」だ。そのほか「節約料理」や「町中華」など。明らかにこれまでと違うのは、「スイーツ」という嗜好品ではない点ではないだろうか。より「食事寄り」であり、日常生活に密着した食がトレンドになった傾向がある。これらのヒットを振り返り、背景を探る。
おにぎりに始まるトレンドの日常化
おにぎりブームは凄まじかった。一時期は7時間待ちの店もあったし、おにぎり専門店が軒並み開店した。具のバリエーションが豊かになり、シンプルな昔ながらのおにぎりから食事になり得る豪華なタイプ、握らないタイプなど進化系も続々と生まれた。筆者もNHKで「おにぎりブーム」をテーマに解説した。番組内でオリジナルおにぎりメニューを披露したところ、番組史上最高の視聴率となったと聞かされた。そのくらいおにぎりは話題だった。さらに、その人気は日本人だけではなくインバウンドにも広がる。海外進出した専門店も行列ができている。
おにぎり以外では、若者中心に「アサイーボウル」の人気が復活した。数年前の大ブームの時には幼かったZ世代が、「健康的な甘いもの」としてアサイーにはまっている。アサイーには利便性があり、健康的、ダイエット向き、腹持ちが良い、甘さもある、といった女性受けする要素が多い。
安堵感を求める町中華
町中華は安価でボリュームがあるという「お得感」だけではなく、なじみやすい味だったり、人情を感じる店だったり、ふらっと立ち寄れる気楽さなど、客に安らぎを与える場所として人気が復活したように感じる。それは、物価高騰、先行き不安などの世の中において、自らの“居場所”のような感覚を与えたのではないだろうか。「ほっとする」、「親しみやすさ」といった傾向はおにぎりにも通じるだろう。
節約を心豊かに楽しむ
家庭内料理では、ひとつの食材を使い切るコツであるとか、節約レシピや調理の工夫などがトレンドで、続く物価高騰を反映していた。飲食店では一品だけで勝負する店など食品ロス軽減、わかりやすさなどを思わせる店も話題となったが、こうした外食の傾向も家庭内の節約志向とリンクするように思われる。
また、外食ではまかない料理も注目を浴びた。飲食のプロのまかないを知ることも、同様に安くおいしくといったお得な情報を得ようとする意識が反映されたのではないかと考える。
便利調理器具や調理法、食感にこだわる商品など、贅沢をせずに家の中の食事や日常食を楽しもうとする傾向が垣間見られた。節約を意識しながらも、その中で楽しみを見つけたり、健康に気を配ったりといったポジティブなのも今年の特徴だ。
ドーナツ、ハンバーグ、飲茶、ラーメン、おにぎりなど、行列する業態もいくつかあった。共通しているのは、高値ではない商材の中でプチ贅沢するメニューだ。例えば行列ができるハンバーグ店は、少々高級なハンバーグとして売価が2000円台であるとか。そもそもが「ハンバーグ」なので数万円にはならないし、フォアグラの価格にはならない。低予算でも十分に満足し得る料理や、焼き方やサービスを工夫した個性ある店、エンタメ性を感じさせる店などが人気となり、安心できる商品の中に楽しみを与えてくれた。客もそういった店での時間を楽しんだ。
このほか、ふるさと納税の返礼品も以前の高級品路線ではなく、2024年はコメや植物油など日常に不可欠な商品の人気が高まった。また、おせちにも、規格外の食材を入れた「Mottainaiおせち」をローソンが発売するなど、「心豊かに節約する」話題も目立つ。
そう考えていくと、物価高騰が長引く中、日本人は臨機応変にその時に合った食を工夫し、楽しみ方を見いだせるようになっているのかもしれない。しかし節約が成熟期となり日常化することも飲食業界の発展にはならないし、経済の成長にもつながりにくいのではないか。2025年はもう少し華やぎのある話題も求めたいものだ。
(食の総合コンサルタント 小倉朋子)