牛丼3社に考える~人気のカウンター席の特徴とは

飲食店にとって客席のレイアウトは、店舗の雰囲気を作り、売上げを大きく左右する要素の1つだ。コロナが流行して、黙食に適し小規模店でもオペレーションしやすいカウンター席中心の店も目立つようになった。以前から、カウンター席中心の業態というと、牛丼チェーン、ラーメンなどが思い浮かぶが、そうしたカジュアル店だけでなく、高級寿司店などもあり、カウンター席中心の店は業態も幅広い。

しかし牛丼チェーンのカウンター席は避けたいと思う若い女性は少なくない。それはなぜなのだろうか。

今回は大手牛丼チェーン、その中でも「カウンター席」に焦点を当て、客の視点に立って考えてみたい。

「カウンター席は落ち着かない」は本当なのか

一般的に若い女性から牛丼店は「落ち着かないので入りにくい」「早く退店しないといけない雰囲気」と言われてしまう。最近は、男女を問わずZ世代からも同じ声を聞くことが多い。落ち着かないという印象の要因の1つに、カウンター席中心だから、ということがあるだろう。店のスタッフに食べるところを見られるのは、若者を卒業した筆者でも落ち着かない気持ちになる。

しかし若い女性もZ世代も全席がカウンターのラーメン店には入るし、カウンター席でも気にせず食べ、別段ラーメン店に落ち着きたいと思って入るわけでもない。牛丼チェーンもラーメン店もサクッと食べて退店するタイプの店であることは同じなのに、なぜ牛丼店ではカウンター席を避けたいと思ってしまうのだろうか。

また、カウンター席中心の高級寿司店でも、サクッと食べるスタイルは同じではあるが、客側は別段「落ち着かない、居心地が良くない」とは思っていないだろう。むしろリラックスした雰囲気が流れていると考えているのではないだろうか。

客がワクワクするカウンター越しのエンタメ

理由の1つは、カウンター越しにエンターテインメントが感じられるかどうかだろう。

ラーメン店の調理場でラーメンの湯切りの様子や背油をチャチャッと乗せる様子が見えたり、寿司店では握りや美しくたれをネタに漬ける様子など店側のパフォーマンスを見て、客は楽しみや期待を膨らませる。1人で来店しても楽しめる時間がある。

これらのパフォーマンスは、ある意味、店と客のコミュニケーションにもなっており、無言の会話が成立しているのだと感じる。出来たてを出すおにぎり専門店も同じと考える。

コロナ禍の時であっても連日満席を続けていた「挽肉と米」というハンバーグの定食を出す店があるが、厨房をカウンター席で囲むような設計で、客の目の前で、肉を切り、まるめ、炭火で焼き、コメを釜で炊いている。スタッフの手際の良さとともに、焼きの香りやご飯の香り、ほのかな煙や音などが絡まり、カウンター席から見る、まるで飲食の劇場のようなのである。

調理場の様子はカウンター席から見る飲食の劇場だ

牛丼店のパフォーマンス

思い起こせば以前は牛丼店も目の前で牛肉をおたまですくいつゆをかける様子を見せている店舗が多かった。ご飯にのせるまでの慣れた手際のよい早業で、注文から1分かからず提供できるなどのパフォーマンスをメディアでも流していた。

牛丼店もパフォーマンスがある新メニューの導入や、仕込み作業にパフォーマンスを入れる、ご飯にパフォーマンスを投入するなど、工夫次第でカウンター席にもZ世代が敬遠しない方向は可能なのではないだろうか。

カウンターの高さに客の心理が表れる

また、こうしたパフォーマンス力だけはなく、カウンターのテーブルの高さも客が「落ち着く、落ち着かない」と思う理由として重要ではないだろうか。ラーメン店も寿司店も、おにぎり店もほとんどの店のカウンターは、一段下がっている。店側ができた料理をカウンターに置く場所から一段下がったところに実際のテーブル(カウンター)がある。そのため例えば客がラーメンを前かがみにしてすすっていたとしても、顔自体は段差によって見えにくい。

いっぽう昨今の牛丼店は、その「一段下」がないのである。まさに牛丼をかきこむ様子が丸見えなのである。牛丼チェーンも店舗によってはテーブル席を増やしているので、若い女性はおおむねテーブル席で食べている。

パフェやかき氷、スイーツ専門店で、Z世代や女性はカウンター席に嫌がらずに座る。このような店では、人との会話がなくても目の前のスイーツと会話しながら食べているのだ。料理と向き合うことで楽しく、居心地が悪くもないのだ。

牛丼は素早く食べて客数を増やすのを基本としている。しかし客が向き合いたくなるメニューを作ることも、新たな展開のきっかけになるかもしれない。

(食の総合コンサルタント 小倉朋子)