ミクストランを成功させるには

2019年頃から話題となっていった「ミクストラン」。レストランやカフェ、バーなどの飲食ができる場所に異業種の店を併設させた新業態として注目を浴びた。ミクストランの名前は「ミックス」と「レストラン」を掛け合わせて2019年に調査研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」が生み出した造語とされる。店にも客にもメリットが多くあるとされ、筆者のオフィスの周辺にもミクストランは2015年頃からできていた。しかしすでにレストランやカフェのほうを閉めて一業態に絞っている店も少なくない。成功するミクストランの条件は何なのだろうか。メリット、デメリットを探っていきたい。

新業態「ミクストラン」は定着するか?

ミクストラン事例とメリットと顧客心理

ミクストランの事例はさまざまある。定番は、蔦屋書店に代表される書店(図書館)とカフェの合体だ。そのほか、コインランドリーとカフェ、美容室とバー、スポーツ施設とカフェ、ボーリングや温泉などの娯楽施設とレストラン、陶芸教室などのセミナー施設とレストラン、洋服直しの店とカフェなどがある。

店側のメリットとして、異業種を併設させることで集客力が高まり、売上げアップを期待しての挑戦が多いと想像する。A店とB店が併設したとして、A店目当ての客がB店でもお金を落とし、B店目当ての客がA店でもお金を落とすことを目的としている。そのため、片一方の店だけを利用するのではミクストランの目的は達成させられたとは言いにくい。

しかし実際は、「カフェには行くが、物販まで手を伸ばすかといえばそうではない」「目的があって店舗へは行くが、その目的が達成されればあえて同じ場所内で飲食をする必要もない」といった客が多く、2業種両方を利用するとは限らないのが現実だ。

両方の店を利用させるには

両方の店を利用してもらうには、2つの条件があると考えられる。1つは、もともと飲食業以外の併設業種が時間をつぶさなくてはならない、その場に踏みとどまる必然性の高い業種であることだ。例えばコインランドリーは、洗濯が終わるまで待っている必要がある。洋服直しなども洋服が修理されるまで待つという同様の理由がある。

もう1つのミクストラン成立の条件は、そもそも併設業種の世界が好き(ファン)で、もっと時間をつぶしたいと思っている顧客に対してのアプローチだろう。

例えば「猫カフェ」「フクロウカフェ」など、動物とふれあえるカフェなどは、その店を訪れる客のほぼ全員がその動物のファンであるため、動物と触れ合う時間が長くなることはうれしいことにつながりやすい。また、図書館とカフェのように、本が好きで、本のある空間が好きだ、気持ちが落ち着く、といった本好きが、もともと本に囲まれた時間と空間を好ましいと思っているので、カフェ併設が成立する。

しかし一方で、コインランドリーにしても洋服直しにしてもその場にはいないで、終わる頃に再訪するという選択肢もあるため、魅力的な2業種にしなければ客はその場に「居続けて」お金を落としてはくれないし、動物カフェや図書館カフェも、その場では動物や本といった「好きなものだけに触れる」時間に特化させて飲食は別の場所でしたい、といった顧客欲求もあるため、滞在したくなるような意味のあるカフェ空間を作る必要がある。

そのための方法として、➀その場に長居することにより、「より利便性が高まる」といった顧客の生活スタイルに利点を増やさせるアイデアや、➁カフェも利用することで「気持ちが高揚する、落ち着く」といった顧客のメンタルに響かせる工夫が必要なのだと感じる。

洗濯の合間にカフェで一息

1つの目的から別の目的も同時に受け入れるようにするには

以前筆者がコインランドリーに併設する飲食店のメニュー開発の依頼を受けたことがあった。洗濯を待つ間に、誰もがコーヒーを飲みたくなるわけでもないし、ましてや洗濯物が回っている隣で食事をしたいわけではない。そのため、コインランドリーを感じさせない店づくりを提案し、メニューもそのメニューそのものを目的に来訪するような個性的なものにするよう心掛けて開発、提案した。

人間の心理として、一つの目的(この場合は洗濯をする)があり、そのために行動している時に、全く違う目的をもつ行動には意識が移動しにくいのではないか、と筆者は考えている。そのため、「洗濯をする」という行為と親和性の高いものを販売したり、顧客の脳内で、洗濯と連動させられる行動ならば、ある程度は可能性が高いかもしれない。もしくはさらに踏み込んで、カフェではなくセミナールームとしてさまざまなプログラムの教室を開催し、授業を受けている間に「ついでに」洗濯をする、という逆の発想だ。

スポーツ教室(空間)とカフェの併設も定番のミクストランだ。スポーツという共通の趣味の関係性の中で、コミュニケーションが生まれやすい状況下なので、カフェも使いやすいともいえる。しかし一方では、顔見知りの人が入店する可能性が高いカフェなので、「別の場所へ行きたい」と思う客もいるだろう。教室というコミュニティーの基盤があるので、逆に一人の入店がしにくくなるともいえる。

成功するミクストランを作るには

消費者は多角的な感覚、条件の中で購買行動に至る。物価高騰において非合理なものや意味付けのないものに「なんとなく」ではお金を落としてはくれなくなっている。暇つぶしのための併設カフェではなく、目的になるようなカフェである理由が今後のミクストランの成功には欠かせないのではないだろうか。

(食の総合コンサルタント 小倉朋子)