味がまろやか“超音波熟成焼酎”が初登場
焼酎業界初の“超音波熟成酒”が1日、全国発売された。長崎県・猿川伊豆酒造場(壱岐郡芦辺町、09204・5・0200)の壱岐米麦焼酎「猿川・円円」(さるこー・まろまろ)と、熊本県・(資)大石酒造場(球磨郡水上村、0966・44・0001)の球磨焼酎「鬼倒」(おにたおし)の二品。超音波によってアルコールの刺激が軽減され、味はまろやかになる。クラシック音楽などを聞かせた醸造製品は発売されているが、「超音波熟成の酒類発売は聞いたことがない」(日本の酒情報館)。超音波熟成の効果は、埼玉医科大学などで実証済み。まさに“革命的本格焼酎”の登場といえる。
超音波熟成酒は、協和界面科学(株)(埼玉県朝霞市、048・473・0156、担当=春田滝美氏)が開発した「超音波熟成装置」で造る。同社は、界面科学の物性測器ではトップクラスのメーカー。
同装置は、貯蔵タンク内の液体に浮かべ超音波を発信する“フロート”とタンク外壁にセットする“駆動アンプ”だけ。周波数四〇キロヘルツの超音波を微弱エネルギーとして与え、アルコール分子を小さく均一化させる。それを水分子が包み、安定化すると説明。酒質が丸みを帯び、アルコール代謝速度も約三〇%向上、肝臓への負担を軽減するという。
流通段階での品質について、装置の発案者で写真家の朝倉俊博氏は「一度安定化すると酒質は元に戻らないので、品質には問題ない。それが今までにない特徴」と自信たっぷり。
明治37年創業の猿川伊豆酒造場は、超音波導入の理由を「ビール志向が強い二、三〇代の若者に、焼酎にも目を向けてほしいため」(伊豆平代表)と語る。アルコール分が強い焼酎も、超音波処理で「マイルドで飲みやすくなり、女性層にも十分アピールできる」(同)商品に生まれ変わるという。
球磨焼酎の老舗、大石酒造場の大石長一郎社長も「ノド越しが全然違う」と太鼓判を押す。「今月中に装置を二台追加し、将来は樽焼酎にも使いたい」(同氏)と手ごたえを語る。
現在は地元や九州地域中心の展開だが、発売一週間で両品とも約二〇〇〇本を販売。福岡では問屋主催の試飲会で反響を呼び、「エンドユーザーからも確かな反応を得た」(大石氏)が、「今は第一ハードルを越えた段階」(伊豆氏)と冷静。
今回の動きには、日本医科大学や埼玉医科大学での生理・生体実験などの科学的裏付けがあるという。自然熟成約一〇年が超音波熟成一ヵ月に相当するデータも得られ、一連の成果は学術誌などで発表している。
また、九州大学大学院システム情報科学研究科の都甲潔教授が開発した味認識装置(アンリツ(株)製)で超音波熟成酒を測定した。その結果、未処理酒と比べて「製品開封直後では、焼酎の持つ香りの良さはそのままで、まろやかさにおいて有意なパターンの変化が見られた」(同教授)という。
10月1日、乙類焼酎の増税が実施され、業界にとっては向かい風。付加価値を高めた超音波熟成酒の今後の動向が注目される。
装置導入費用は六五万円(税別、諸費用込み)のほか、ロイヤリティーとして商品上代価格の三%が必要。
各商品の希望小売価格(税別)は次の通り。
▽「円円」(アルコール分二五度)=一・八リットル一五三三円、九〇〇ミリリットル八一九円、七二〇ミリリットル(化粧箱入り)一〇八五円▽「鬼倒」(同)=一・八リットル一七〇〇円、七二〇ミリリットル九〇〇円