スペインにみる朝のシェリーは元気の素

1995.10.10 1号 9面

朝9時前、バルに男性が入ってきてシェリーを注文した。バルというのはスペインに行けばそこいらじゅうにあるカフェとバーを一緒にしたようなもので、引から夜中までコーヒーもアルコール飲料も出しているし、軽い食事もできる。朝食はバルのトーストとカフェオレに決めている人も多い。

先の男性は店員や常連客と挨拶を交わしながら一杯飲むとそそくさと出ていった。彼は毎朝出勤前、このバルに寄ってシェリーを一杯飲むのを長年の習慣にしているそうだ。「血の巡りが良くなるからね」とのこと。

12時頃、またバルに人が集まる。スペインの昼食は2時からだから、午前中に間食が欲しくなる。ビールにオリーブ、ワインにポテト、もちろんコーヒーにサンドイッチの人もいる。ひととき仕事を離れて歓談すると、それぞれのオフィスヘと散っていく。

2時になるとまたバルが混む。帰宅前に一杯、レストランに行く前に一杯。楽しみなのが本日の突き出しだ。イワシのマリネ、ピーマンのソテー…、運が良ければ生ハム。

バルにはたいがいテラス席がある。中の喧騒を離れて外の風を感じながら食事をするのは解放感がある。テーブルにはワインのボトルが一本。国じゅうがワインの産地という国ならではの豊かさだ。

料理は海辺なら新鮮な魚介類。塩焼き、塩茄で、フライなど日本人好みだ。内陸なら牛、豚、鶏、狩猟鳥獣、何でも味が深い。

またスペインは野菜が豊富で新鮮だ。サラダにはやはり地元特産のオリーブオイルを使い、一家そろって大皿をつつく。

テーブルでは子供も一人前だ。一六歳以下は飲まない建前ではあるが、家庭の食卓にもいつもワインがある。小さい子供でも「飲みたい」と言うと、親は同じグラスを与える。そしてワインを一滴注いでたっぶりの水で薄める。でも子供は社会の一員として認められた気分に浸る。こうしてごく幼い頃から兄弟、両親、祖父母に囲まれて、食事と会話を楽しむなかで親しんでいくので、酔うためにワインを飲むという感覚はない。

食後のひとときは席を変えて、リキュールやブランデーで寛ぐ。とにかくスペイン人は疲れを知らず、よく喋る。よく食べ、よく飲み、よく喋る、これが人生。だが一方で、彼らは働き者だということも覚えておいて欲しい。この後、午後の仕事へと出掛けていくのだ。

(シェリー酒研究家、明比淑子)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら