生体時計と自然時計を合わせれば、こんなに元気に

2004.10.10 111号 2面

あなたの身体の中にも組み込まれている「生体時計」。それはあなた自身の最大の個性なのだそうだ。医療法人立川メディカルセンターの医学博士・田村康二さんに話を聞いた。

◆あなたのサイクルを知ろう!

「生体時計」は、遺伝子(時計遺伝子)と環境によって育まれています。生まれてからずっと、あなたの身体のすべての細胞や組織は、時間とともに変動していきますが、この変動のリズムが「生体リズム」です。

例えば睡眠。睡眠は浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)の組み合わせ一セット約九〇分、これを一晩に四~五回繰り返して目が覚めることは割合よく知られていますね。「だから睡眠時間は九〇で割り切れる数字にするといい。七時間でなく、六時間か七時間半がベスト」、こんな話を聞いたことはないですか。けれど厳密にいうとこれは正確ではない。九〇分の単位は人によってプラスマイナス一五分の個人差があるのです。まず、あなたのそのリズムを知ることが大切です。

方法は簡単。今晩寝る前に水分をたくさんとってみて下さい。夜中に尿意で目覚めるでしょう。その間を分に換算して九〇に近くなるように整数(一・二・三・四・五)で割ってみて下さい。必ずしも九〇分にはなりません。人によって一〇〇分だったり、八〇分だったりします。この計算で得た時間があなたのサイクルです。

このサイクルは寝ている間だけでなく、昼間も作用します。昔から午前10時と午後の3時にはお茶の習慣がありますが、これは朝8時半から仕事を始めて九〇分で午前10時、昼休みを挟んで九〇分が二回過ぎると午後3時だからです。合理的で理にかなっていますね。九〇分に近いあなたのサイクルで休憩を入れれば、身体も頭脳もさらに調子が上がってきて、仕事がはかどるはずです。

◆地球とあなたはすこーし、ズレてる

あなたの生体リズムの基本単位は分かりました。あなたはこのリズムで一日二四・五~二五時間の周期で活動しています。えっ! と思うでしょう。そうなのです。地球が太陽の周囲を回る自転の周期はご存じのように二四時間、ズレが生じているのです。

地球の自転、つまり機械時計と生体時計のズレは、私たちの健康に大きくかかわっています。「今日は調子が悪いな」、そんな言葉が出る時はズレのリズムが修正できていない時。典型例は時差ボケですね。一時的なものならば病気の発症までは至りませんが、これが続けば体内にセットされた時限爆弾の爆発を早めてしまいます。三〇年後にセットされたものをみすみす数年後に爆発させてしまうのです。

どうやって健康な人間は、ズレを調整しているのか。朝、起きて太陽の光を浴びることでリセットが行われます。「生体時計」は、太陽の光の指示によってまるで腕時計の分針を遅らすように、その針を地球の自転に合わせているのです。

光とともに目覚め、闇とともに眠る。人類は数十万年も長い間、変わることなくこの習慣を続けてきました。日本でいえば百数十年前までは病気の時限爆弾は、生体に必要な栄養素の不足や、細菌・ウイルスなどを引き金に起こるケースが多かったといえます。科学の進歩によって人工的な光が普及したいま、最も気をつけなくてはいけないのはこの生体リズムの乱れなのです(図1、2参照)。

◆曙、たそがれ、そして真昼 三つの光を浴びること

太陽というと赤や黄色、オレンジなどをイメージしますが、朝方、夜が白々と明けてきて太陽が昇る前の光の色は実は青緑色です。この「曙」の光は約五〇〇ナノメートルの波長を出します。対して昼間の太陽は約六〇〇ナノメートル。最近、この曙の光、つまり青緑色の光が神秘的なパワーを秘めていることが明らかにされています。

「早起きは三文のトク」といいますが、それどころか値千金のトクです。曙の光を目から入れると夜に活躍していたメラトニン(体内時計のメモリーに相当する時間ホルモン)のスイッチが切れ、生体時計の針の戻しがスムーズに行われます。今日一日身体のあらゆる機能が順調に活動できる準備が整うのです。毎朝の習慣にすれば、時限爆弾の針の進行スピードは間違いなく遅くなるはずです。

夕方もう一回、青緑の光が登場します。太陽が没して沈む間の「たそがれ」の光です。これは朝とは逆に針を後ろにずらす効果があります。このようにして人は生体時計を太陽とともに早めたり、遅らせたりして調整しているのです。忙しい毎日の中でも「曙」や「たそがれ」を楽しんで下さい。それはとても大切なことです。

最後に昼間の黄色い光の話です。青緑の光のように神秘的な働きはほとんどありませんが、この光を浴びるとメラトニンの分泌量がさらに減るのです。その結果、メラトニン曲線の振れが大きくなって、これが夜の熟睡につながります。「夜なかなか寝付けないし、熟睡できない」人は昼休み、三〇分でも一時間でもいいから外に出て、この全く副作用のない睡眠薬を活用して下さい(図3参照)。

◆青緑色の蛍光灯の活用

そうはいっても職業上、太陽とともに早寝早起きできる人ばかりではない。現在、労働者の一〇人に一人は夜間従事者といわれ、そうしたケースでは青緑色の蛍光灯を医療器具店で購入するなど、リズムを取り戻す方法はある。

田村さんは将来、生体リズムを正しく活用する方法が社会の中でも模索されると予想している。

◆どうして寝る時間がマチマチだと調子が悪いのか…

もう一度、睡眠の話に戻りましょう。ぐっすり眠った日と睡眠不足の日、どちらが体調がいいかは誰でも分かっています。どうしてそんなに違いが出るかというと、睡眠は身体の整備工場だから。身体の部品、細胞はたった一秒に五〇〇〇個も破壊されるほど弱いもの。このため破壊された細胞に代わる新しい細胞をどんどんつくり出さなくてはならないのですが、その作業をせっせとやってくれるのが、私たちの睡眠中なのです。

「寝る子は育つ」というのは、寝ている間に成長ホルモンなどが分泌され、これが骨の成長などを促し、タンパク質を筋肉に取り込んでくれるため。北極圏に近い夜が長い地域の人ほど、背が高く大柄になるのも、かつては必然的に睡眠時間が長かったからです。

私たちは眠りにつくと、昼間活動していた身体の機能はどんどん低下し、いわば仮死状態になります。習慣としている睡眠時間の前半分が終わったところがその底。この前半で成長ホルモンによる身体の整備はほとんど終わります。ここから起きる準備がスタートします。整備が終わった車のバッテリーを充電し、ガソリンを満タンにする作業が始まるわけです。血圧が上昇し脈の数も増えていきます。同時に、エネルギーの素となる脂肪やタンパク質を分解して、血液中に送り出すコルチゾールなどのホルモン分泌が盛んになります。私たちは普通、こうした準備が整ったところで目覚めるのです。

もし、いつも八時間寝る人が四時間で起きてしまったら、準備ができてない身体を無理矢理起こすことになります。目覚める二時間前に分泌されるはずのコルチゾールは分泌されないままです。三時間で目覚めるとすれば身体の整備も不十分です。

また、寝入る時間もバラバラで昨日は八時間、今日は五時間、翌日は一〇時間…のように睡眠時間が不規則となると、身体は一体何時間で疲れた機能の整備をしたらいいか判断できなくなります。続けば慢性的な睡眠不足状態になり、脳の働きも身体の機能も低下、成長ホルモンとコルチゾールの分業作業が乱れ、同時に分泌されてしまうことになります。コルチゾールの分泌時間を目覚める頃に合わせるには、一週間以上の習慣が必要です。

◆心筋梗塞は目覚めの後、胃潰瘍は真夜中 病気には時刻表がある

それぞれの疾病には、発生・進行しやすい魔の時間帯がある。

急性心筋梗塞症は、朝、目が覚めてから一~二時間後と、一一時間ないし一二間後に発生しやすい。ぜんそくは朝の4時頃、脳梗塞は午前中。脳出血は午後の8~10時。胃潰瘍は真夜中、午前零~2時の間に起きやすい。がん細胞は他の細胞と同様に夜中に活発に増殖する。

薬の飲み方もこの法則に則れば、効果がより期待できる。詳しくは田村康二さんの書籍にある(図4、表1参照)。

◆あなたは、快適で楽しい時間が1日何時間くらいありますか

ほとんどの人がそれは夜とし、不快でイヤな時間は昼に集中すると答えます。仕事や対人関係のストレスもあるので当然。だからこそ、この昼間をいかに快適で楽しく過ごすかが、健康を維持する秘訣です。リズムを生かした活動と休憩、機械時計(自然時計)との合わせ方、楽天的な考え方など、毎日を工夫にして下さい。

*記事中の時刻は午前6~7時に起床する人を標準としている。「病気の時刻表」関係は、標準から個人の時間のズレを入れ算出すること。

●参考図書●

『生体リズムを活かす』(10月末発売/中央労働災害防止協会)

『病気の時刻表』(青春出版社)

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