だから素敵! あの人のヘルシートーク:女優・ジュディ・オングさん

1997.02.10 17号 4面

外見の美しさだけでは本当の意味で人を魅了することはできない。女優として、歌手として活躍するジュディ・オングさんはまさに人を真底から魅了する美しさを持つ。その美しさの秘密は自分を表現するもう一つの世界、「木版画」の世界にあるようだ。「萬紫千紅」と題したジュディ・オング木版画展で、全作品(木版画三二点、水彩画三〇点)を前にお話を聞いた。

好きなんですね、版画が。好きじゃなきゃ、二〇年も続けられないでしょ。こうして個展を開くことができて、夢は信じてやり続ければかなうんだって実感しました。

でも最初は難関でしたよ。はじまりは、棟方志功門下生でいらした井上勝江先生の個展で一対の版画を見たことからなんです。その瞬間、強い衝撃で足が釘づけになってしまって。その版画は黒いバックに白いポピーの花と、白いバックに黒いポピーの花が描かれたものでしたが、モノトーンなのにケシの花のような凄い赤を感じさせるんです。とても不思議に思って、刀の作り出す独特なシャープな世界を私も作ってみたくなりました。

早速「習わせてください」と井上先生に申し出たのですが、私の女優という仕事柄から「お忙しいから、大変よ」って優しくお断りされてしまって。でもね、そうなると俄然ファイトが湧くんですよね。その日のうちに家にあったベニヤ板に絵を描きました。中学で使った彫刻刀を見つけだし、バレンの代わりにスリッパを使って刷ったんです。

再び井上先生の門を叩いたのは一週間後。先生は「あなた頑固そうね。これなら大丈夫かも」って教えて頂けることになったんです。

作品のテーマは大好きな花から入りました。それと、日本の家屋が好きなんです。

中学、高校と油絵、水彩をやってきましたが、小学生まで遡ると、よく金閣寺を描いていたんです。この頃から日本家屋が好きでした。本当に金閣寺は日本建築の最高傑作ですよね。

茅葺き屋根の家屋を描いた作品「昼下がり」というのがありますが、私は茅葺き屋根の家に絨毯を敷き詰めて住みたいと思っているんです。合掌造りや屋根の鬼瓦を見ているとムズムズしてきちゃうんです。

そんな風に思いながら振り返ると、版画をはじめて二〇年ですよ。赤ちゃんが成人してしまうくらい長い時間なんですね。

木版画の処女作「椿」=(下)=からどれもこれもすべて思い出がたくさんあります。この年はこんなことがあったなぁってね。

えっ? あえて言うならどれかって? うーん、「冬の陽」(次ページ)でしょうか。

ジュディ・オングと知られないように当時の本名、翁玉恵(おきなたまえ)で日展に応募したんです。入選の知らせを受けて思わず万歳しちゃってね。モデルは飛騨高山の合掌造りの民家です。

版画をやるには決断力と集中力が必要なんです。第一刀を入れる時は「勝負」って感じで挑むんですよ。決断力です。版画の元絵は水彩ですが、筆を下ろす時も思いっきり集中して、息を抜いて、止めて、グッと描き下ろすんです。筆に込めた命に刀でもう一つの命を込めていく……緊張の連続作業なんですよ。それに版画は刷り上がって作品を見るその最後の瞬間まで、どんな作品に仕上がったか分からないんです。この時も緊張の一瞬。これがまた楽しいんですね。

楽しいと思う時間を多く持っているんだからとても健康的よ。

それに集中力。これは持続するのが難しい。中断されたくないから制作作業は夜にやることが多くなります。夕飯を食べた後、テレビを見る代わりに版画をするんです。人間が集中出来る時間は三時間だと思うんです。これが限界。それを越えると逆に健康に悪いでしょう。

一年のスパンで考えると、ここで版画をやるぞーって期間を設けるんです。この期間はお仕事をレギュラー番組以外はやらないようにして。反対にコンサート期間とか、仕事に集中する期間は版画のお休み期間でもあります。

スケッチブックはいつでもどこにでも持って行きますけれどね。

版画制作に入ると、本当に自分の世界にのめり込んでしまうんです。もうこうなったら、主人も入り込めない。あっ、でもね、妻としての仕事はしていますよ。だってお腹がすきますから(笑)。お料理をすることも大好きだから、気分転換になって。家族と一緒においしい料理を食べる、これは最高のリラックスです。

のめり込んで、リラックスしての繰り返しですが、これをうまくやらないとよくない。リラックス効果を最も簡単に手に入れる方法はやはりお茶ですね。私はお茶は中国茶に限らず何でも好きですが、温かいものを好みます。身体を冷やしては健康にいいことがないですからね。温かいほうが香りも豊かでよりリラックスします。香りが良いものはアロマセラピー効果も期待できます。お茶を飲む。そして再び版画にのめり込むんです。

たまには徹夜もしてしまいます。でも女優ですから翌日顔が腫れていても構わない日を選んで、ですけれどね。健康にはよくないと分かっている。けれど、つい夢中になってしまう。日展に続けて入選させて頂いた頃、白日会の会長の伊藤清永さんが「無理をし過ぎると健康を害すよ」って忠告してくださったんです。本人は楽しく夢中だから気付かないけれど、側で見て下さっていた方には分かったんでしょうね。それが現実となり翌年は静養の年となってしまいました。

そんな経験もあり、毎日の食事には気をつけるようにしています。私は薬膳の知識を祖母から、そして母から習っていましたから、食で予防、治療を実践しています。たとえば徹夜明けは消費器系が弱っていますから、お粥とか柔らかいものを食べます。それに身体を補う働きをしてくれる貝柱のほぐしたものを加えたり、鶏のスープを飲むことも多いです。それと必ず野菜をたくさん使った料理も一緒に食べますよ。野菜は疲れを取る働きをしてくれますから。

食材が身体にとってどんな働きをしてくれるかを知れば薬膳は難しいものではないですよ。

今回の個展のテーマ、「萬紫千紅」とは中国の有名なことわざで、萬の紫があって、千の赤がある。すごくカラフルということなんですが、中国では赤は大変おめでたい色、紫も高貴さもプラスされてやはりおめでたい時に使う色なんです。

版画の白黒の世界って実はとてもカラフルだと思うんですよ。この上なく「萬紫千紅」なんですね。どんな色も持っていないような色を持っているんです。私が井上先生のモノトーンのポピーから強烈な赤を感じたように、私も何かを伝えられるよう、愛して頂けるような作品を創っていきたいです。

個展は東京は2日まで予定を終了しましたが、4月には大阪で、その後全国をまわる予定です。

台湾・台北生まれ。二五歳の頃、版画を始める。日本にしかない民家をテーマにした作品を多く手がける。

八三年から日展三年連続入選など作品の評価は高い。

現在NHKテレビ「食卓の王様」の司会をはじめ、TFMラジオ「エイジアン・ダイナミックス」のパーソナリティーなどで活躍中。4月20日には東京青山劇場でのコンサートをはじめ全国をまわる予定。

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