沖縄・那覇 牧志第1公設市場に見る健康食材 いらっしゃい、マチグワーへ

1995.11.10 2号 8面

全国津々浦々の市場に健康食材は数々あれど、その特異性と多様性においてまず注目に値するのは沖縄のマチグヮー(沖縄方言で市場のこと)だろう。何といっても当地は日本一の長寿県だ。毎日の食卓で何を食べていればそんなに楽しく長生きできるのか、品物が平積みに所狭しと並ぶ通りを歩けば、興味はつきない。

「これいったい何だろう?」という食材が次々に目に飛び込んでくるからだ。

中でも県外から来た人ならばビックリして立ち止まらざる得ないのが、この精肉店のコーナー。何なのかは分かる。しかし買って料理したことはないという人がほとんどに違いない。この剥いだ顔の皮以外にも、ゴロンところがっているアシティビチ(足部)、中味(内臓)など、豚一匹丸ごと、すべての部位が揃っている。アシティビチはよく茹で十分に脂肪分を抜いて昆布や大根などと一緒に煮上げる。豪快に肯ごとかぶり付くと絶品。顔の部位はミミガー刺し身がポピュラー。これは豚の耳に頬の皮などを混ぜて細く切り、酢の物にしたもの。コリコリとした歯ごたえが特徴だ。

沖縄県の豚肉消費量は全国平均の約二倍。これは何も現在に始まったことではない。本土においては仏教文化の伝来から明治の初めの頃まで肉食はまずあり得なかったが、当時の琉球国は違った。一四世紀中に中国福建省から豚が持ち込まれ、仏教文化の影響がないので食用として定着した。

この地には昔から共食という風習がある。ある家で飼っていた豚をつぶす。そうすると隣近所全部に呼びかけて一斉に皆でこれを食べるのだ。豚はハレの正式な行事の時に出る高価な食べ物。正月に一匹つぶし二~三軒の家で分け合って食べた後、塩漬けにして保存し月々の行事の時少しずつ取り出しては使っていたという。正式な行事用の豚に対し、ヤギは比較的日常時の食べ物で出産・新築や遠くから友人が来るというような、その家ごとのお祝いや楽しい酒席に登場した。

豚肉のコレステロールを心配する人もいるが、実は鶏肉や牛肉の方がはるかに多い。頭の働きを良くし疲れを除くビタミンB1もたっぷり含まれている。

沖縄ではさらに独特の料理法で豚の脂を抜く。まず時間をかけて炊き、途中でやめて冷やす。たとえば冷蔵庫に入れれば脂は浮く。氷を入れればその周りに脂が集まる。これをすくってまた火にかけるという動作を何べんも繰り返すのだ。

だから実際に食べる最終段階では脂はほとんどない。

沖縄語にはティーアンダー(手の脂)という言葉がある。これは実際に手に触れる脂という意味ではなく、手間暇をかけて愛情を込めて物をつくるということ、このティーアンダーこそが長寿食の源なのだ。

緑黄色野菜の摂取量が多いことも沖縄の食文化の特色だ。通年を通して気候が温暖なことの健康面へのメリットは、温度変化による身体へのダメージが少ない、冬場でも身体を動かしやすいといったフィジカルな面ばかりでなく、土地で穫れた野菜が一年中味わえるという食習慣面での効果もあるわけだ。

本土ではもう冬を迎え始める季節でも、この市場には地場産生鮮品が溢れている。沖縄の野菜といえば…のゴーヤ(ニガウリ)はもちろん、本土では肌の角質の手入れに用いるイメージが強いヘチマも、ナーベラと呼ふこちらでは食用主体。

ところで左下部の紅いも、本土の物より白いのにどうしてこの名前?と思われるかもしれないが、皮は白いが、実は中身の食べる部分が紅色なのだ。バランス良い健康食の基本がここにはすべて揃っている。

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