クチーナ通信 二日酔いの朝はイタリアでもお粥
「ううぅ~辛い~~」
ある日の朝、レストランの厨房で私は呻いていた。
前の晩、大きなパーティーの準備のためろくに食事ができなかった空きっ腹のところへ、ついついスプマンテなど飲んでしまったため、当然のように今朝の私は二日酔いなのだった。
頭はゴーモンのように痛むし、胃は縮みあがり水一杯を流しこむのがやっと。
一人こんな地ゴクのような体調だというのに同僚の連中は冷たい。アルコールに強い彼らは、そもそも『二日酔い』という症状を知らないのだ。「“前日の飲み過ぎによる後遺症”?(和伊辞典にはこんな説明的記述があるのみ)。何それ? キミはグラスに二杯しか飲まなかっただろ? 何か食べればそんなの治るよ」という明るい無理解の声に囲まれつつ昼時を迎えたが当然食欲はなし。二日酔いは病気ではないが、とりあえず胃は病人と同じだ。こんな時には日本でもお馴染じみのアレに限る、と私は一人分のコメを火にかけた。
アレとは『リーゾ・ビアンコ』。早い話が白粥だ。
イタリア人はその存在意義を賭けて、と思うほどパスタやコメの火通り~アルデンテであること~にうるさいと思われており、実際そういう人は多いが、さすがに病気や体調の悪い時には話は別だ。コメはお粥状に、パスタはスープでやわらかく茹でる(スープ用には粒状の小さなパスタが一般的)。
具合の悪い時に食べるものはどこの国でも基本的にはあまり変わらない。あくまでも基本的には、だ。私はどんなにしんどい時でもこのお粥作りは人に任せたくない。なぜなら、つい好意に甘えてイタリア人に作ってもらうと、彼らは仕上げに必ずパルミジャーノチーズとオリーブ油をたっぷり入れてしまうから。
イタリアではパルミジャーノチーズは母乳の次に与えられる離乳食として子供の頃からお馴染みの食品だし、新鮮なオリーブ油は日々の食卓に不可欠。両者とも栄養に富み消化が良く、彼らにしてみればむしろ弱った時にこそ口にすべき物として白粥の中に振り込んでくれる訳なのだ。しかしながら、日本人には弱った時にこの両者の濃厚な香りは少しばかりキツイ。
それならば出来上がったお粥に私は何を入れるか?
答えは、日本でも最近知名度が上昇した「乾燥トマト」。まあ梅干しの代用だが、お湯で戻した柔かな物には旨味とほのかな酸味があり食欲増進に最適だ。
二日酔いの胃にもやさしく、私は何とか危機を脱することができたのだった。
乾燥トマトのお粥、体調を崩した時におすすめである。もちろんパルミジャーノとオリーブ油のお粥もとてもおいしいのでこちらもぜひおすすめ。ただし風邪や二日酔いの時以外に…。
(イタリア・トリノで料理研修中 合田達子)
RISO BIANCO
リーゾ・ビアンコ(4人分)
【材料】コメ1カップ、水5カップ、塩、パルミジャーノ・レッジャーノチーズ(おろしたもの)及びエキストラ・バージン・オリーブ油各適宜。
(応用編は乾燥トマト=湯をかけて戻したものを好みに応じて数枚)
【作り方】
1、鍋にコメと水、塩ごく少々を入れて強火にかける。沸騰したら弱火にし、柔らかくなるまで30分ほど炊く。
2、火を止め、仕上げにチーズとオリーブ油を好みの量加え、鍋をゆすって均等になるよう混ぜる。
(応用編)何も加えず乾燥トマトを添えて供する。
☆イタリアではコメはとがないが、気になる場合はといでもよい。