ヘルシー企業の顔:真誠・富田信哉会長
掛け声は、「ゴマするな、ゴマするな」。(株)真誠の冨田信哉会長はユニークな企業経営で知られる。ゴマ=日本の伝統食品、というイメージを打ち破り、ゴマ粒の豊かな栄養価を紹介。皮むきゴマの技術開発や、パンにぬるゴマといった新しい食べ方の普及など、ゴマの健康文化を広げた。今後のさらなる夢についてうかがった。
ありがたいことに私どもがアピールするまでもなく、ゴマが健康にいいというのは、皆さんよくご存じなんです。でも、中には曲がった固定概念も多い。たとえば「白より黒の方がいい」とか。世界八○ヵ国で約二七○万㌧生産されるうち、黒ゴマはたった一○万㌧ちょっとです。黒の方がそんなに良ければ、みんなそれを栽培してるはずでしょ。
いまはアメリカの方が日本より一人当たりのゴマの消費量が多いんです。あちらは肥満に悩む方が多いですからね。メーカー側の仕掛けでなく、消費者自らの意識が高いんです。ハンバーガーやパスタ、ステーキソースに混ぜ込んだりと料理法も豊富です。
ぼくの健康法もやはりゴマ。いつも卓上において、味噌汁や漬物にぱらっと。簡単で、本当においしいです。日本人にももっと自由な発想でゴマに親しんでもらいたい、それでゴマ屋の私はいつも言うんです「ゴマするな、ゴマするな」ってね。
--ゴマするなってことはゴマを皮ごと食べろという意味ですか?
いえいえ、違います。全く逆です。コメにしろクリにしろ、皮ごとは食べないでしょ。皮つきのままではせっかくのゴマの栄養は十分に取り込めないんです。小さいこともあり、そのまま身体を通過してしまうんですね。皮をむいて食べればゴマのいい栄養分がしみ出して身体に取り入れやすく、ずっとヘルシーなんです。大体ゴマを皮ごと食べてしまうのは日本人と韓国人だけなんですよ。皮をむいてしまうと香りを損なうから駄目というわけ。
私が訴えたいのは、皮つきの丸ごと食べるのと、すり鉢ですって食べる、この二パターンしかない日本人のゴマの食べ方を打ち破って、もっとバラエティーを加えたいということなんです。日本人は皮つきのゴマを丸ごと買う。だから私たちゴマ屋は、多少高くても、色が白くて、粒が丸くて大きくて揃っているゴマを世界中探し回っていたんです。
そんな時、ナイジェリアのあるところで、クワを担いだお百姓さんに「日本人って面白いな、なぜわざわざそんな高いものを買うの」と質問された。日本人は目でものを食べるんだ、と私はエラソーに言ったんですが、「だけど、皮をむいたら一緒じゃないか」と彼。その言葉が発想のきっかけとなって、ぼくの“皮むき”への飽くなき挑戦が始まったわけです。地球上どこを見ても、ゴマは皮をむいて食べる、皮が最初からむかれた物を買うのが常識。それを日本にも流行(はや)らせようと。
当時は、ゴマの皮をむくのに、化成ソーダが使われていました。すると、薬臭さが残る。さらに牛乳のように真っ白な色になってしまう。それが日本人にとっては気持ち悪くって、普及しなかった。
そこで考えたのが、物理的に機械でゴマの皮をすりむく方法です。加工するには生産コストはかかりますが、それ以上に原料コストを抑えられる。粒の不揃いも、色のバラつきもかまわないので、本来の意味で品質の良いものが手にはいるんです。
当初は相当の反発も食らいました。でも、ちょうど世界的に化成ソーダへの規制ができて。タイミングがピシャンとあった訳です。いろんなことを考えたら、人生は運ですよ。運の要素が大きい。タイミングがあって、それが相乗効果になって、またジャンプして…ということですね。
--それは信念や考え方を持ち続けられたからこそでしょう。運を呼び込む努力とね。
いえいえぼくはいつも遊びながら仕事してますから(笑)。しかも、ガメツクね。遊びの中で何かを見たり聞いたりして、ひらめくことがあるんですよ。何事からでもヒントを得て、会社そして自分にも役立たせるという、ガメツサが必要だと思うんです。「夢なきものは理想なし。理想なきものは信念なし。信念なきものは計画なし。計画なきものは実行なし。実行なきものは成果なし。成果なきものは幸福なし」いつも社員にはこう言っています。
--最近出された“しょうゆ味ごまスティック”も面白い商品ですね。
少し前、“塩コショウ”を作った会社が上場したのに刺激を受けましてね。塩にコショウをいれただけですよ。で、上場まで持ってっちゃうんだから、まったくすごい。いかにシンプルに付加価値をつけるか、そんな発想が大事なんだな、と。
これがビールのつまみに最高なんです。クルミやピーナツ以上に、ぼくはゴマはビールに合うと思うんです。ただ、ゴマはそのままではバラバラして食べにくい。だからといって、それを水飴やら小麦粉やらで固めてしまうと、その味のほうが勝ってしまうし、コストもかかる。で、シンプルに味付けは醤油だけ、食べづらさは包装法でカバーしました。
あっ、これはそうやって手のひらにあけてお上品に食べるもんじゃない。封を開けたら、そのまま口にもっていって一気にあおる。新しいスタイルとして楽しんでいただきたいんです。
もちろん時間がある時は、すり鉢ですることを楽しんでほしい。忙しい時は卓上ゴマすり器を使って。それからプロの技術ですりおいしさキープの包装をした当社製品も、大いに活用して。ゴマは健康に非常に有効な食品です。食べ方はもっとたくさんあっていい。これからもゴマを通して、世界の人々の幸せと地球の活性化を考えていきたいですね。
●プロフィル 昭和7年9月29日、旧満州国大連市生まれ。昭和20年引き揚げ、昭和27年関西学院短大商学部卒業、ニチメン(旧日綿実業)入社。昭和36年株式会社真誠設立、社長に就任。平成8年4月、代表取締役会長に就任。全国ゴマ加工組合連合会、中部ゴマ加工組合、各理事を歴任する。好きな書物は松下幸之助著『暮らしの夢・仕事の夢』。座右の銘は「理念実現の手段として真誠が存在する」。