ヘルシー企業の顔:エフピコ・小松安弘社長「トレーがリサイクルになった日」

1998.12.10 39号 12面

スーパーで販売されている食品の容器、プラスチックトレー。裏に「エコトレー」とマークが入っているものを最近よく見かけるようになった。包装容器リサイクル法が施行されてまだ一年半ながら、実に世の中に出回っているトレーのうち、一〇枚に一枚はもうこの再生トレーなのだという。全国でただ一社、この再生トレーを“生産”している容器メーカー、(株)エフピコの小松安弘代表取締役社長にこれまでの軌跡を聞いた。

包装容器のリサイクルはすでに平成2年から開始しております。リサイクル工場は現在全国で七カ所、再生トレーの出荷は月間七〇〇トンになりますね。まぁ、ここまでくるには大変な苦労がありました。闘いの日々といってもいいかもしれません。

工場の建設にはやはり相当な資金をかけなくてはならないし、つくった後も四~五年はフルには稼働しないので計算通りのコストにはなりません。制度や業界に押されて手掛けたことではなく私が自分で始めたことですから。だから誰にも文句は言えませんよね。周りは「苦しいのならやめればいいじゃないか」という雰囲気でした。しかし、そんな時代があるからこそ、いまの当社があるわけです。

キッカケは、昭和49年の石油パニックが起こる少し前頃、本拠地の広島でのゴミ戦争の経験です。埋立地がいっぱいになり、焼却炉が故障して廃棄物処理がパンクしそうになりました。問題は、急激に増加したスーパーのトレーによる家庭ゴミであると。もうトレーに載った食品は買うのはやめましょうという大変な消費者運動が起きました。

とはいっても、安いし便利で衛生的だから、みんながこのトレー入りの食品を買うようになった経緯があります。昔ながらの小売店を一軒一軒回る買い物できる暇がある人は、それでもいいでしょう。でも時代はすでに共働きで、夕飯の買い物を一〇分、二〇分でぱぱっと済ませなくてはならない人たちが多数を占めるようになっていました。

私はその時きっぱりと「こういう人たちの生活を否定するんですか。それはおかしい。それよりも、きれいに洗ってくれればこの容器はリサイクルできるんです」と反論したんです。

リサイクル推進の流れの中に、もう一つ焼却時に問題の起きるフロンガスを使ったシート撤廃の話があります。この議論の始まりは、アメリカのマクドナルドのハンバーガーの包装容器からでした。消費者運動が起きてから撤廃までに三~四年かかっているのですが、その過程を全部見つめてきました。

日本の業者として、私はマクドナルドが完全に容器を改める前に何とかこの容器リサイクルを着手しなくてはこちらも大変なことになると訴え続けたのですが、当初の意見の多くは「あれは、アメリカで騒いでいることでしょう。日本ではない。法律が違うのだから」だった。当時は行政すらも、フロン撤廃への制度改正は二〇〇三年とか四年とか、のんきな見通しを示していました。

しかし、私はそんなことでは済まない、世界が許すはずがない、絶対前倒しになると業界を説得してきま

した。それで平成2年5月の総会で皆の賛同を得て、9月から地元の広島と大阪の六軒のスーパーでトレー回収をスタート。これは、アメリカのマクドナルドのハンバーガー容器が変わった二カ月前です。

消費者の方には、トレーを洗ってもう一度持ってきてもらうという手間をかけるわけなので、最初はトレーと交換でたまったら金券に換えられるスタンプを発行しました。環境保護に協力して自分も少しトクができるというコンセプトですね。

負担はスーパーさんが持ったわけですが、その分トレー回収で来店率が上がり、店の売上げがものすごく向上したんです。一日三〇〇〇枚くらいしかトレーが出ていない店に七〇〇〇枚くらいの回収トレーが集まる。要するに他店が販売した分まで回収する形です。この動きがすぐNHKに取材されたのは私たちにとって大変な宣伝、追い風になりましたね。

包装容器リサイクル法は案の定、去年の4月に実施されました。フロン容器撤廃も平成12年に迫っています。我々にしてみると、正しいことをやっていれば法律の方が後から追いかけてくるという感じです。

政治の方はそんな風に多少ゆらゆらしていても日本は国民がしっかりしているから。環境のこと一つを見ても、これだけ主体的に考えられるくらい消費者は賢いし、二次産業には世界に冠たる企業がたくさんある。

その点では、少々損をしてもいいんじゃないですか。国民の金を政府が借金するだけで、別によその国から借りてくる訳じゃないですからね。預金が赤字国債になるだけです。いつかは払ってくれるかもしれないしね。

あらゆる業界において、環境の問題を解決できないような企業は今後は残してもらえないだろうと思います。いろんな意見が出てくるでしょう。大事なのはその際、その物事のいいことと悪いことの両方を見ていかなくてはダメということ。こんないいこともある、こんな問題もあると、両方を出して検討していかないと、いい結論は導き出せないと思います。

◆プロフィル

こまつ・やすひろ 昭和12年岡山県生まれ。37年福山パール紙工(株)(現(株)エフピコ)設立、代表取締役社長に就任(現任)。50年モダンパック中国(株)代表取締役社長、平成2年エフピー商事(株)代表取締役社長就任(現任)、9年食器容器業界に対する貢献により藍綬褒章受章。

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