ようこそ医薬・バイオ室へ:リウマチが難病でなくなる日
世の中には治らない病気が未だ数多くあるが、リウマチもその一つで、痛風などと同じように「生涯治療」、すなわち一生治療とつきあっていかなければならない病気とされている。
一般にリウマチというと、厚生省難病指定疾患の一つ「慢性関節リウマチ」をいう。日本の慢性関節リウマチ患者の数は約八〇万人といわれ、高齢社会の進行に伴い、老年者のリウマチ患者が増加する傾向にある。そもそもリウマチという病名は、ギリシャ語の「リューマ」という言葉に由来して、「流れ」を意味する言葉である。古代ギリシャのヒポクラテスの学説によって、関節が痛む病気、すなわちリウマチ性疾患はすべて脳から悪い液体が全身に流れ出し、それが関節などにたまって痛みを起こしていると考えられたらしい。
リウマチというと老人の病気と思う人も多いと思うが、実際には女性の三〇~五〇歳代での発症がもっとも多い。不思議なことに、男女別では一対四と圧倒的に女性に多く、家事や育児、仕事など人生でもっとも多忙な年代に発症するので問題は深刻である。
実は義母も三七歳ごろに発症したので、妻はそれ以降看病で大変だったらしい。その義母は一〇年前にリウマチで亡くなったので、自分もいつかリウマチを発症するのではないかと妻は不安らしく、たまに手の指に違和感があると、すぐに病院でリウマチ因子の血液検査をしてもらっている。
その発病の原因であるが、以前この稿でも「自己と非自己」として紹介した通り、動物のリンパ球は最初あらゆるものを攻撃するように作られるものの、胸腺に行って自分を攻撃するリンパ球を殺して、外敵を攻撃するリンパ球だけが残るという仕組みになっている。これは「クローン選択説」と呼ばれ、提唱したバーネットは一九六〇年にノーベル賞を取っている。しかし、最近ではこの選択も完全ではなく、自分を認識して攻撃するリンパ球も少量残ってしまい、それがリウマチなどの「自己免疫疾患」の原因となるといわれている。
リウマチの場合は、この選択の異常によって体内に自己抗体であるリウマチ因子ができ、これが血清中のガンマグロブリンと結合して関節に沈着し、炎症を起こすとされている。しかし、この現象が女性になぜ多く起こるとか、肝心なところは未解明のままである。
とはいえ、最近リウマチの新薬に関する報告が相次いでいて、中でもアメリカのセントコー社は、従来の治療薬が効かない患者の七割に効く薬を開発し、アメリカではすでに販売が開始されている。これは関節で炎症を悪化させる働きをするTNF‐アルファ(腫瘍壊死因子)を不活性させる抗体で、車イスから離れられなかった人が三、四日で歩けるようになった例もあったという。
また、わが国でも富山化学工業(株)が、関節破壊に直接かかわる滑膜細胞の活性化に関与している転写因子AP‐1に着目して、コンピューターシミュレーション技術を駆使して、転写因子AP‐1の活性を阻害する低分子化合物の創出に成功したと発表している。
聖マリアンナ医大と創薬ベンチャーであるロコモジェンが、同じく滑膜細胞で異常に働くシノビオリンというタンパクを発見し、このシノビオリンの働きを調節する化合物をアメリカのファーマコピア社と共同で開発すると最近発表した(二〇〇一年12月)。
日本の抗リウマチ薬の市場規模は約四五〇億円と推定され、アメリカでは二〇〇〇億円という巨大市場となっている。良い薬が出れば一気に普及することが予想され、世界中の製薬会社がゲノム情報とコンピューター技術を使って躍起になっているので、慢性関節リウマチが難病の指定から外される日も遠くないかもしれない。
(新エネルギー・産業技術総合開発機構 高橋清)