Going My Own Lifeがんと生きる:岩手県・岡田敦子さん

2003.01.10 89号 7面

東北の都、盛岡でもっとも格式のある料亭『日本料理 田中』は「竹」に囲まれている。名物女将・岡田敦子さんのおっとりとした優しい笑顔に包まれながら、旬の素材満載の郷土料理に舌鼓を打とうと、政財界人含め多くのグルメがきょうもこの店を訪れる。この豊かな笑顔の奥に、この女性が肝臓がんを抱えて生きているとは、今夜のお客さんの誰が信じられるだろうか。

最悪の状況下でも運の強い人というのはいる。この岡田さんもそういう人なのだろう。昭和8年生まれの七〇歳。がんと分かったのは一昨年の夏、六八歳の時だった。一〇年前から患っていた持病の肝炎が肝硬変に変化して、それから腫瘍が見つかったと医師に伝えられた。「諦めは早いんです。事実としてあるんだから仕方ないじゃない、と思いました。ああこれで死ぬんだろうな」と。

働き者の名物女将のあっけらかんとした態度に、むしろ周囲があわてた。岡田さんの長男は歯科医師、次男は心臓外科医だ。母を思う息子たちは周りを巻き込んで「何かいい方法はないか、何でも試す」と触れ回った。

◆腫瘍除去も再発

一回目の手術は一昨年の秋、四つの腫瘍を除去した。けれどまた再発。昨年の夏にもう一度。「一回目の手術の時から、もう二度と家には戻れないだろうと、思っていたのに」。

息子の勧めで、肝炎の状況を抑えるために七~八年前から漢方薬局を訪れ、いろいろ試していた。がんと聞かされた頃、「あなたの身体にきっと合う」と、あさひ薬局の小野寺聡さんから新しい健康食品を渡された。シベリア霊芝という生薬を原料にしたもので、お茶にして飲むと良いという。「ロシアのレニングラード医科大学の文献を見て、ずっと診てきた女将さんの体質に、これは良いと確信しました」(小野寺さん)。

「私がいなくなった後のこと」も息子に言い渡して、運を天に任せた女将さんは、もうまな板の上のコイの気分でいた。「せっかく周囲の人たちが気遣って下さるのだから、何でも受け入れよう」。ふんわりとした素直さはかえって人を熱くさせた。「どうしてもこの人を救いたい。それにはこのお茶をもっと強く信じてもらうことが必要だ」と、小野寺さんは思った。

◆地元のものなら

キッカケになったのは薬剤師である奥さんの一言だ。「このキノコの現物が地元にあったら、きっと信用してもらえるね」。女将さんは生まれてから一度も盛岡を出たことがない人だ。『田中』の料理もすべて土地の食材を土地の料理法であしらった「土産土法」。「そうだ、女将さんはきっとそうだ」。

日本の本州で見つかった例はない。けれど小野寺さんには「きっと」と思うところがあった。ロシアのシベリア霊芝の生育地の緯度は、岩手と同じだ。南米のアガリクス、韓国のメシマコブもがん治療に卓効があるとされるが、小野寺さんは日本、特に東北の人には気候が近いこのシベリア霊芝が合うと確信していた。松茸を採るキノコ名人に仕事を依頼したのは、女将さんのがんが発見されたすぐ後。小野寺さんの父親が、「昔、鉱山があった頃、シラカバの木にコールタールのような、不思議なものがあった」と語ったため。シベリア抑留の経験を持つ高橋敏哉さん(同店の大家さん)は、ロシアでの捕虜時代にこのキノコを採らされた思い出がある。「黒光りしていて石炭のようだった」。それらの言葉を手がかりに、捜索作業は進められた。そこは、ジメジメとした湿地帯。風が強くて温度が低い場所。熊の生息地と重なるかなり危険な所で、ある意味命がけの仕事ともいえる。けれど小野寺さんの情熱と女将さんの笑顔に押されて、キノコ名人の畑友八さんもその気になった。だんだんみんなが意地になっていった。

盛岡のシベリア霊芝が見つかったのは、女将さんが二回目の手術から退院直後のことだ。

「へーえ、これがそうですか。すごいものですねぇ。これがこの土地にあったの」。女将さんは頬を紅潮させ、目を丸くした。「私はすごく貴重なものを、飲ませてもらってきたんですねぇ」。いかにもそう思わせる、不思議な形、不思議な物体。小野寺さんの思いは、成功したようだ。

◆竹から運もらう

「シラカバの木のずっと上の方に生息していた。知っている場所だったのに、ずっと分からなかった」と、下を見て歩くことが習性のキノコ名人は言った。周囲はクマザサに覆われていたという。それを聞いた女将さんはまた、目を輝かせた。「三〇年ほど前、車の事故で九死に一生を得たことがあるんです。車が転覆して道の外に落っこちた。グルグルと横転してもうダメだと思った時、ふわっとハンモックの上みたいに止まった。そこが竹林の笹の上で。うちの店の周りに竹を植えたのは、そのことがあってから。私はよほど竹に運をもらっているんですね」。

強風にもしなって元の美しい姿に戻る竹のように、女将さんは穏やかに笑っている。

●岩手県・岡田敦子さん

入院したとき以外、生活のペースは全く落としていない。6時半に起床、1時間自分で運転し朝市へ行って仕入れ。家に戻り孫を学校に送り出して9時過ぎに朝ご飯。昼前から調理場の手伝い。午後は美容院で夜のお座敷の準備や、ボランティア活動など。仕事が終わり就寝は夜の12時。病人とは思えない1日だ。

●シベリア霊芝(チャガ)

ロシアでは古くからお茶代わりに飲まれていたシベリア霊芝。ある医師がこのシベリア霊芝に注目し、研究を重ね、その効果が証明された。この逸話はソルジェニーツィンの小説『ガン病棟』にも紹介されている。

白樺はロシア人の健康の象徴。生きた白樺の樹液を吸いながら成長するシベリア霊芝には白樺のエッセンスがギッシリ。白樺には各種の多糖類、サポニン、アミノ酸、ミネラルなど身体に良い成分が含まれている。キノコの成分と白樺の成分が融合してシベリア霊芝独特の性質が作り出されている。

(問い合わせ=日本中医薬研究会 電話03・3273・8891)

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