東南アジア、拡大するノンアル飲料 一方で規制も
世界的に導入が進む非アルコール系のノンアルコール飲料「ノンアルコールビール」をめぐり、イスラム文化圏を抱える東南アジア各国でさまざまな議論や対応がなされている。きっかけを作ったのは、オランダのビール大手ハイネケン。6億人の市場を狙って参入したものの、一部でムスリム(イスラム教徒)向けに表示を変更するなど対応に追われている。タイでは、アルコールを含んでいないことからソフトドリンク並みに据え置かれてきた税率を引き上げる議論が高まり、早ければ今期からの実施が固まった。ノンアルコール飲料をめぐる東南アジア市場のホットな話題をお届けする。
昨年7月のことだった。ハイネケンのマレーシア現地法人ハイネケン・マレーシアが声明を発表。販売を開始したばかりのノンアルコール飲料「ハイネケン0.0」について、「非ムスリムを対象とした21歳以上向けの飲料」とする表示を、販売するスーパーマーケットなどでわざわざ掲示することにした。同国のムジャヒド宗教担当相が「ビール会社が販売する飲料をめぐってムスリムの消費者が混乱する」と注文を付けたのが理由だった。
タイでは、ノンアルコール飲料をめぐって税体系を見直す動きが始まっている。昨年3月にタイで販売が開始された「ハイネケン0.0」。飲みやすさや健康志向の高まりから予想を上回るヒットとなり、一時供給が追いつかない事態となった。標準的な330ml缶のカロリーはわずか69kcal。糖質ゼロも生活習慣病に苦しむ人にはうれしい。20歳以上と限定を加えたこともあって、オフィスやカフェでも販売され、ちょっとしたブームとなっていた。
これに待ったをかけたのがタイの税務当局だった。財務省物品税局は、税区分の不存在からソフトドリンクと同じ1.4%とされてきたノンアルコール飲料への税率を見直し、通常のビールの税率である22%よりは低い新税率を適用するとしたのだ。早ければ、今期会計年後(19年10月~20年9月)にも実施するとしている。
その一方で、ノンアルコール飲料市場は着実に成長を続けている。先駆けを築いた「ハイネケン0.0」は現在、世界約40ヵ国以上で販売され、欧州やロシアで人気となっているほか、東南アジア市場向けにシンガポールでの生産にも乗り出している。最終工程でアルコールを抜いているものの醸造過程がビールと同一なことから、ビールと同じ風味を味わえるところが高い評価となっているようだ。同じムスリムの国インドネシアでも、ノンアルコール飲料の市場拡大が著しい。
こうした動きに東南アジア各国のビール各社も、関心を持って行方を注視している。あるビールメーカーは予想以上の反響から、高プレミアムのノンアルコール飲料について試作を続けていることを明らかにした。同様の動きは、ほかにも広がっていくものと見られている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)