東南アジア、植物由来の代替食品が拡大 人口増と新型コロナ影響で
プラントベース(植物由来)の食材を使った代替食品が東南アジアで広がっている。シンガポールで米国や香港企業が「植物肉」を使った食材の市場投入を相次ぎ成功させているほか、タイでも地場レストランが取り扱いを本格化させている。スイスに本部を置く世界経済フォーラムによると、地球の人口は2050年には100億人に達するとされており、不足する動物由来のタンパク質に代わる新たなタンパク源の確保が喫緊の課題。半数の人口を抱えるアジアでの取組みが決定打となることは確実で、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした新たな需要も背景に、食品関連企業の動きが活性化しそうだ。
中国大陸をルーツに持つタイの移民(華人)が健康を願って旧暦の9月上旬に行う伝統行事「キンジェー(菜食週間)」。期間中は肉類や魚介類はもとより、卵や牛乳、ニンニクなどの香味野菜なども一切摂取は御法度。野菜や果物、キノコ類などを使って普段と変わらぬ食品を作り上げる食の祭典は、海外からの観光客にとっても人気の的となっている。
ところが、今年は新型コロナの影響で航空便がストップ。規模も縮小すると思われていたところ、予想以上の盛況に関係者も満足顔だ。商業省によると、10月16日から25日の日程で開催された各地のキンジェーへの来場者は平年を1~2割程度上回った。その多くが、植物由来の食材を使った代替食品への強い関心だったという。
バンコクの中心部にある大型商業施設セントラル・ワールドで開催された菜食週間のイベント「ワールド・オブ・ベジタリアン2020」には地場のレストランなど20店が参加。延べ数千人の来場者やバイヤーでにぎわった。キノコや果物、タロイモで作り上げたというパイ、どこから見ても本物そっくりのステーキなどレベルアップされた代替食品に関係者は舌鼓を打つばかりだった。
タイではすでに、外食地場大手のゼン・コーポレーションが屋台風レストラン「キアン・バイ・タムムア」で植物肉を使った料理の提供を本格展開している。タイ料理の定番「ガパオライス」に使われる「豚肉」は大豆やココナツオイルから作り上げた。味、食感ともに本物に限りなく近いと、多くのタイ人消費者が足を運ぶまでとなった。同社では新たなメニューの開発にも着手、新業態での出展も視野に入れている。
新型コロナのまん延は、代替食品に対するこうした需要を後押しした。米国の食肉処理施設などで広がったコロナ感染は、食肉イコール感染源という印象を世界の消費者に拡大。代わって注目を集めたのが衛生的な食品工場で作られる植物由来の安全・安心な代替食品だった。従来のベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(動物性食品を食べない人)にとどまらない世界規模での需要が膨らんだ。
こうした動向を、食品関連企業は「新たなビジネスチャンスの到来」(ゼン・コーポレーション)と受け止める。シンガポールでは、米企業が植物由来の「卵」を生産する工場をアジアで初めて建設。人口が急増するこの地で供給を開始していく方針だ。また、同地のスタートアップ企業も培養エビ肉を開発。実用化にめどを付けた。
世界規模での人口増とコロナ禍。東南アジアでは、相まみえそうもないこれらの要素が重なり合って、代替食品という新しい市場で活発な取組みが続けられている。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)