タイ、飲食関連の人手不足深刻
タイの食品スーパーや飲食店などで人手不足が深刻となっている。地場の食品スーパーでは従業員を募集したのに応募が少なく、経営計画の見直しを余儀なくされ当面は小型店舗を中心に出店していく方針に切り替えたところもある。飲食店でも店員の確保ができずに、出店計画の見直しを行うところが出始めている。このほか、ホテルでもレストランの調理人やウエートレスが集まらずに営業が遅れるところも。背後には、失業率の回復と新政権が掲げる最低賃金の引き上げ方針から、市場の動向を見極めようという求職者の意識の変化があるようだ
バンコクなどに約30店舗を展開する地場の食品スーパーマーケット「フードランド」では、年初に掲げた出店計画の見直しを早くも求められている。当初は年内に最大5店舗の大型店の出店を計画していたが、従業員の確保が予定通り進まず、半分以下の2店舗に変更するという。7月末に5%の賃上げを実施したが、効果は薄かった。これ以上の賃金引き上げはできないとの判断から、中期計画そのものの見直しに踏み切った。
同社の全従業員約2500人のうち1000人ほどが毎年入れ替わるという。定着率は6割程度と決して高いとはいえず、今後の出店とさらなる成長には従業員の定着が課題となっていた。今春の総選挙で各党の多くが最低賃金の引き上げを公約に打ち出したことから、選挙後は採用や雇用にも影響が出ると予想していた。求人市場が落ち着くまでは状況は変わらないとして、当面は小型店舗を中心に出店する方針に変更することにした。
複数店舗を展開する日本食の飲食店でも、従業員の確保が難しくなっている。毎年5~7月は新卒者の応募が集中するが、今年は軒並み前年割れとなった。このため、入社1年を超えた社員を各店舗のリーダーとするためのトレーニングが急きょ前倒しで実施され、その配下に隣国のミャンマーやカンボジアなどからの出稼ぎ者を充てる人事制度を採り入れることにした。隣国からの求職者は働く意欲が高く、言語もすぐに覚える。「タイ人の入職者を待っていては出店は進まない」とある日本食店のオーナーは胸の内を明かす。
ハイシーズンを前に、ホテルでの人手不足も深刻となっている。タイホテル協会が8月にまとめた聞き取り調査では全体の9割のホテルで、客室担当者やレストランなどで人手不足が懸念されると答えている。とりわけ観光地が集積する南部では顕著だといい、タイホテル協会南部支部では、必要とされる従業員の7割程度しか確保できていないと明らかにした。併設するレストランではコロナ禍の営業停止から再開ができないままの店もあるという。
国家統計局によると、タイの失業率はこのところ1%前後で推移している。コロナ禍に見舞われた昨年までと比べ改善しており、数値の上からも従業員集めが少しずつ難しくなっていることが分かる。一方で、15~24歳の若者の失業率は、毎年5月前後に新卒者が一斉に求職活動を開始することから同時期に上昇し、その後下落するのが例年の傾向だったが、今年は乱高下を繰り返し5~6%に高止まりしたままだという。背景に、新政権が年明けにも実施するであろう最低賃金の引き上げが少なからず影響しているとみられている。
4年ぶりに実施された下院総選挙では、各党の多くがポピュリズム政策として最低賃金の引き上げを訴えた。結果としてタイ貢献党を中心とした連立政権が誕生したが、引き上げの流れに変更はないものとみられている。このため、引き上げ後の給与水準の動向を見定めようとする求職者が一定程度いるというのが統計局の担当者の見方だ。コロナ禍を乗り越えたとはいえ、人手不足と現場の混乱は当面は続きそうだ。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)