忘れられぬ味(9) エバラ食品工業・森村忠司社長 「直火炊きたて」

あらためて「忘れられぬ味」とは何かと問われて考え込んでしまった。グルメと称するものではレストランや料亭、中華飯店などでもずいぶん食べ歩いてはいるが、うまいとか、まずいとかあっても調理法や素材、料理人の違いであってスパッと印象に残るもので連チャンするほどのものではなく、このテーマには当てはまらない。

地方の名産・名物の中ではひそかな楽しみにしているものもあり、例えば広島のお好み焼や四国の讃岐うどんなど、各地区にいろいろあって良い思い出として残るものは結構ある。

「私の忘れられぬ味」は、「ごはん」を第一にあげたい。数年前になるが立ち寄った横浜関内にあるうなぎ屋の「うな丼」はすばらしくうまかったのである。最低三〇分は待たされるが、ごはんが熱々で舌が焼けるような感じと香りがマッチして感激するほどうまかった。その後何回か行っているが、この店の秘伝は炊きたての「ごはん」であった。注文を受けてから飯(めし)を炊いているようで、どのようにしているのか興味をそそられる。またこの「ごはん」は懐かしいおふくろの味を持っていた。

その後、「ごはん」には気を配るようになったが、炊きたてごはんは何もうなぎだけでなく天丼・親子丼何でもすばらしい味になり、熱々ごはんの塩むすびなどは最高のぜいたくなものではないだろうか。

今やごはんは炊飯器で炊くのが当たり前となっていてそれぞれ工夫され、おいしく炊けるようになったが、この「炊きたてごはん」の味とはイメージが違う。昔、おふくろが薪で炊いたごはんの味なのである。今後より近い味になる炊飯器に期待している。

おいしく調理するには「直火」がベターであるのは言うまでもなく、外食も加工食品も直火調理に近づけるべく努力をしている。直火で焼いたパン、七輪で焼いたサンマ、かまど炊きの飯など直火の効用は味の原点である。

カレールウは随分普及しているが最近、直火焼の商品も発売され始めた。蒸気焼と直火焼の差を比較しているが、直火焼の特徴が良く出る食品である。

直火の味はおふくろの味、最近は内食も減りおふくろの味の伝承が変わりつつあるが、七輪でサンマを焼く味は、型こそ変われ、長く受け継がれていくと信じている。

(エバラ食品工業(株)社長)

日本食糧新聞の第8283号(1997年10月29日付)の紙面

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