忘れられぬ味(16) カゴメ社長・伊藤正嗣 青春の味との出合い

「おふくろの味」‐‐よく耳にする言葉である。それはその家の代々伝承された味であり、自分にとって一番美味しいと感じる味でもある。言い換えれば、自分の舌に慣れ親しんだ味なのである。

私にとって慣れ親しんだ味と言えば、トマトジュースもその一つである。

私がトマトジュースと出合ったのは学生時代であった。きっかけは、ちょうどカゴメに内定が決まった直後で、カゴメの商品に関心が湧いて味わって見ようと思った時である。まず、一番はじめに口にしたのが夏の暑い日に飲んだトマトジュースであった。喫茶店へ行く度にトマトジュースを飲んだ(それまではトマトジュースを飲んだことがなかった)。当時の学生にとって喫茶店は大学の教室より身近で、入り浸っては議論の場と化したことが多かった。当時から私は議論大好き人間で、大学の教室ならぬ喫茶店へ毎日出席し、友達と議論をしたものだった(今では懐かしい思い出の一つであるが)。

この頃を境に私の喫茶店での飲みものはコーヒーからトマトジュースに代わっていった。私にとって喫茶店の議論も、トマトジュースも懐かしい青春の味なのである。お陰で入社した時は同期のだれよりもトマトジュース通になっていた。

今思えば私の愛社精神はどうもこの頃から始まっていたと思う。

ところで、今ではこのトマトジュースもいろいろ価値があることが分かってきた。トマトジュースが肝臓ガン、大腸ガンなどのガン予防や老化防止など、いわゆる成人病予防に大いに効果があるということである。それも長い間飲み続けることがより効果的であるようだ。実はトマトのあの真っ赤な色鮮やかな「リコピン」という色素が働き者で、われわれにとってはありがたいものなのである。まさに「トマトの色には理由(わけ)がある」といわれるゆえんである。

とにかく、企業人で生き抜くには心身ともにタフであることが条件である。どうも私のエネルギーはこの慣れ親しんだトマトジュースにあるようだ。今の私にとって、力の源であるカゴメのトマトジュースは第二のおふくろの味なのである。

(カゴメ(株)社長)

日本食糧新聞の第8295号(1997年11月24日付)の紙面

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