忘れられぬ味(64) ブルドックソース・川村親慶社長 本場のスパゲティの味

我々の世代は食べ盛りの少年期から青年期にかけて、戦中・戦後という歴史的時代に遭遇しました。当時の食生活はここで述べるまでもなく、素材の量・質とも一億総グルメといわれる今日からみると、隔世の感があります。戦後は洋風の食生活が急速に普及し、日々の生活様式もずいぶんと欧米ナイズされました。

そんな中、今からおよそ三〇年前、初めて海外旅行に出かけました。11月のヨーロッパを約三週間くらいで巡ったように記憶しています。新しい味との出会いに胸をふくらませての旅立ちとなりました。

まず、フランス。本場のフランス料理には、確かな味わいと品位を感じ、それは確かに素晴らしいものでしたが、私が庶民派なのでしょうか、フランスでは生のオイスターが絶品で感激し、今でも寒い中で食べた情景が目に浮かびます。

イタリアでは従来の価値観を大きく変える食べ物に出会いました。スパゲティとマカロニです。

それまで、スパゲティといえばトマトケチャップ味の強いナポリタン。マカロニと言えばサラダくらいの食メニューしかもっていませんでした。何かの都合で私一人がホテルで食事をすることになり、マカロニを勧められました。日本のそれを思い断りましたら、是非間違ったと思って食べてみて下さいと言われ、しぶしぶ承知いたしました。目前に並べられたスパゲティと大きなマカロニ(いまでいうペンネでしょうか)は全く違っていました。トマトの新鮮な味をベースに魚介の豊かな風味に味付けられたスパゲティ、ガーリックをふんだんに使用したペンネ。麺類でもこうして油や野菜・魚介を取り入れた食べ方ができるのだという、未知の発見をした気がしました。

どこの国でも主菜は自国の誇りの味です。どの人々にも通用するものなのだという感を強くしました。本当においしかった。その時、近い将来この味はきっと日本にも受け入れられるだろうという予感がありました。

現在、何回目かのイタリアンブームで日本流にアレンジされ、広く家庭料理にも取り入れられて、すでにわが国の食文化に溶け込んでいます。

後年、時宜を得て商品化したものに「まぜりゃんせシリーズ」があります。和風の新しいスパゲティソースとして現在まで愛用されております。そういった後日談もあり、私にとってイタリア料理は忘れられない味となりました。

(ブルドックソース(株)社長)

日本食糧新聞の第8400号(1998年7月24日付)の紙面

※法人用電子版ユーザーは1943年以降の新聞を紙面形式でご覧いただけます。
紙面ビューアー – ご利用ガイド「日本食糧新聞電子版」

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら