忘れられぬ味(22)信州ハム・柴田昌男社長「もち豚Tボーンの炭火焼」

乳肉・油脂 連載 2000.04.24 8680号 2面

職業柄、豚肉料理には大変興味がある。食べられないのは爪と毛と歯ぐらいとイタリア人がいう“MAIALE”ビタミンBなどの栄養をたっぷり含んだおいしくヘルシーな豚肉を普段はハム、ベーコン、ソーセージやサラミその他の保存食に加工しているハム屋が業だが、これらは保存性もさることながら「生肉で食べるより何か変わったおいしい味の食べ物にできないか」と昔の人々が研究した結果、できた加工品でもあると先輩から聞いたことがある。

日本人は年間一人当たり一二キログラムの豚肉(生肉ベース)を消費しているといわれるが、日本には「とんかつ」という素晴らしい食べ方がある。アメリカやカナダから豚肉を売り込みに来る外国の人にとんかつを食べさせると決まって「こんなにおいしい食べ方は今まで知らなかった、国でとんかつ屋を開きたいがノウハウを教えろ」とくる。といって実現したという話はあまり聞いたことがないが。

神宮前のヒルズ青山というビルの地下に開店して二年あまりになる「ラ・グロッタ」というイタリアンレストランがあるが、ここの「もち豚Tボーンの炭火焼」は「とんかつ」に負けず劣らずの美味である。

骨付きで五〇〇gの豚肉塊がしっかり炭火焼きされて、あたかもジュージュー音を立てているがごとくテーブルに運ばれてくる。香ばしいにおいがいっぱいに立ちこめて、それまでのアンティパストとともにすでに一本空いてしまった赤ワインでできあがったほろ酔い気分が、さらに盛り上がる、まったくの至福の一瞬である。ソムリエ・給仕二役の板橋さんがTボーンをていねいに取り除いてくれてロースとヒレを均等に二皿に取り分けてくれる。

肉汁をたっぷり含んだヒレは甘くすら感じる。表面がカリッとしたロースと脂身のコンビネーションが実にうまい。ヒレとロースを同時に食べられるのが無精者にはうってつけだ。またさらに追加のワインが一本空いてしまった。シェフの寺内さんはどこでこの料理をものにしたんだろう。

一度この料理を食べたらまた行きたくなること必定、正直言って最近こんなおいしい豚肉料理を食べたことがない。まさに忘れられない味だ。

(信州ハム(株)社長)

日本食糧新聞の第8680号(2000年4月24日付)の紙面

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