忘れられぬ味(55)エスフーズ・森島征夫社長「“闇市”のツラミ」

乳肉・油脂 連載 2001.06.27 8863号 2面

私は、昭和33年に出身地の静岡県磐田市から大阪に出てホテルに就職をしましたが、英語を覚えたり、仕事を覚えることに必死の時代でした。このころの給料は食べるだけで精いっぱいで世の中もハングリーな時代でした。当時の大阪駅前はまだ再開発されておらず、闇市のような場所でしたが、ホルモン屋さんが一軒有りました。そこで食べたツラミが強烈な印象でした。柔らかくておいしいツラミをたっぷり食べて飲んで給料の一日分くらいでした。これがおいしくて月に一回は行きました。

昭和41年に独立して、自分の商売として沖縄に豚の足・耳・尾を輸出し始めたころ、那覇市桜坂で煮豚料理を商売の研究を兼ねて食べました。豚足は沖縄では足テビチと呼ばれている料理ですが、その店では鮮度がいい足を柔らかくおいしく煮込んで出してくれました。

豚足には多くのコラーゲンが含まれていますが、最近沖縄の人が長寿日本一というニュースを見るにつけ、元気なお年寄りが多いのは、こうしたコラーゲンがたっぷりな料理とビタミンCが豊富なニガウリや昆布を多く食べる食文化があるからと思います。

和風もつ煮込みとの出会いは、大阪道頓堀の藤井というお店です。このお店の煮込み料理がすばらしいものでした。牛内臓肉を煮込んだものはビールやお酒に実によく合いましたし、柔らかくて消化が良く何度でも食べたくなるような、もつ料理の奥の深さを感じさせる印象深いお店でした。

私が牛内臓肉を扱っているのも、こうしたおいしいもつ料理を食べたことがベースになっています。ひとを元気にさせる方法は幾種類もありますが、おいしいものを食べることは、年齢に関係なく、いつでも楽しめて効果的な方法といえると思っています。幸いに内臓肉の長所を多くの方に知っていただくようにもなりましたし、食べものを提供できることを仕事に選んだことは大変に良かったと思っています。

(エスフーズ(株)代表取締役社長)

日本食糧新聞の第8863号(2001年6月27日付)の紙面

※法人用電子版ユーザーは1943年以降の新聞を紙面形式でご覧いただけます。
紙面ビューアー – ご利用ガイド「日本食糧新聞電子版」

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

書籍紹介